■不可解な憂太の性格

 作品を注意深く読むと、乙骨憂太は、連載中の『ジャンプ』本誌登場中と、この0巻とで「顔」がちがうことに気づく。しかし、憂太は、そもそも0巻ですら「表情」に一貫性がない。

 憂太の初登場時は、「気弱な表情」「困惑の表情」、死を覚悟した「諦めの表情」ばかりだ。呪術高専転入時には、この表情を、クラスメートになる禪院真希(ぜんいん・まき)から「“善人です”ってセルフプロデュースが顔に出てるぞ 気持ち悪ィ」と指摘されている。おどおどしていて、友達も少なくて、引っ込み思案、これが乙骨憂太のキャラクターである。しかし、読み進めていくうちに、この「第一印象」は大きく転換していく。

 呪霊を祓う「任務」に出かけた際、ウジウジとした態度を取る憂太に、真希は「何がしたい!!何が欲しい!!」と問う。「僕は……もう誰も傷つけたくなくて」、これが憂太の出した答えだった。

 しかし、ここからの展開が奇妙なのだ。「誰かに必要とされて 生きてていいって自信が欲しいんだ」と言う憂太の顔つきは、切実で純粋。その直後、呪霊を祓うために、里香を召喚する時には、憂太の目は焦点すら合っておらず、「人を救う者」とは言いがたい表情をしている。そして、呪霊を駆逐した後には、また16歳の少年らしい顔つきに戻る――コマごとに表情が変わりすぎているのだ。ここに乙骨憂太の「本質」が表現されている。

 憂太が呪術高専に入学したのは、受動的な理由からだった。しかし、彼は戦闘に向いていた。相手を殲滅させるために必要な「冷酷さ」「迷いのなさ」が、初の戦闘シーンで、すでに見え隠れしている。この彼の「非情さ」は、その後、作戦遂行能力の高さへと昇華していく。

■乙骨憂太は「人間の殺害」をためらわない

 混乱の中、里香の力を得ようとする特級呪術師であり呪詛師の夏油傑(げとう・すぐる)の作戦によって、真希をはじめとする仲間たちが瀕死のけがを負い、憂太の怒りが爆発する。

<僕が!!僕を!!生きてていいって思えるように オマエは殺さなきゃいけないんだ>(乙骨憂太/0巻・最終話「眩しい闇」)

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