恐ろしいことに、憂太は「人間ではない存在=呪霊」を祓う時と、「生身の人間=呪詛師」を殺害する時の態度に、違いをみせない。
1巻以降、『呪術廻戦』の登場人物たちは、差こそあれ、「呪霊を祓うこと」と「罪を犯す人間を殺害すること」に大きな隔たりを感じて、悩んでいる。
<初めてなんじゃねぇかと思って 祓ったんじゃなくて殺したの>(虎杖悠仁/8巻・第63話「共犯」)
<人間を殺めるのは 気分が悪い>(七海建人/3巻・第21話「幼魚と逆罰―参―」)
戦闘時に迷いなく呪詛師を殺している者ですら、過去には「覚悟を決める過程」を必要としたことがあったのだと、多数の登場人物のセリフからうかがえる。しかし、憂太は、違うのだ。
■憂太の「愛」は本心なのか?
夏油との熾烈な戦いは、「里香の呪力」をどれくらい引き出せるかにかかっていた。そこで、憂太は里香のコントロールを試みる。これまで「里香ちゃん」と言っていた呼び方は、突然「里香」に変わる。それだけでなく、里香に対して強い命令を下し、怒ったような態度すらとる。そうかと思えば、一転して「怒ってないよ」「嫌いになんてならないよ」と、小さな声で甘く優しく囁く。これらの態度は、「恋愛」のテクニックのそれだ。素直で幼く、オドオドしていた憂太は、ここで急に「大人」に変わった。
11歳のままの里香。成長し続けていく憂太。0巻表紙の憂太と里香のコントラストは、いびつで悲しい。その後、仲間を守るために、どうしても夏油に勝たねばならない憂太は、里香に「その身を捧げる」ことで、里香の呪力の制限をなくし、最大の呪力で夏油を攻撃しようとする。
<僕の未来も 心も 体も 全部里香にあげる これからは本当にずっと一緒だよ><愛してるよ里香 一緒に逝こう?>(乙骨憂太/0巻・最終話「眩しい闇」)
憂太はこの告白によって、11歳のまま成長することができない里香を「少しだけ大人に」してあげる。その様子を見た夏油は、苦々しく「女誑し(おんなたらし)め」と叫んだ。しかし、憂太はあっさりと「失礼だな 純愛だよ」と答えるのだった。この戦いをへて、憂太は「愛の呪い」を解き、里香を解放することができた。