(1)盃につがれたる酒の色の美しさを味わう。


(2)盃を手にもちあげたときの酒の重みを味わう。
(3)盃を口ちかくもってきたときの酒の香りを味わう。
(4)酒が唇にふれたときのそのぬくみ(カンの加減)を味わう。
(5)酒が舌の上を流れる、そのなめらかさを味わう。
(6)酒としてのうまみ(甘くても不可、辛くても不可)を味わう。
(7)咽喉(いんこう)をすべってゆく、そのなごやかさを味わう。
(8)酒のあとくちを味わう。
(9)全身的に酒をうけ入れた、ホッとした気持ちを味わう。

 これだけじっくり酒を味わえば、「酒は天の美禄なり」という言葉が生きてきますね。

 井泉水は養生訓の「心は楽しむべし、苦しむべからず」という言葉を受けて、「天を楽しむ」ということも語っています。

「天を楽しむとは、天より自分に与えられたことを凡(すべ)て楽しとして享受することである。(中略)雨がふるならば、その雨もまた楽しとする気持である。禅の言葉に『日々これ好日』という。この心境である。考えてみるまでもなく、今日、ここに私というものが生きて息をしていること、このことだけがすでに大きな天の恵みではないか」

 そして「人間はたえず生長していなければならない」と説きます。「七十になっても、八十になっても、生長しているべきものだ。長寿ということは、即ち生長ということなのだ。生長なき長寿はナンセンスである」

 これはまさに、私がいつも語っているナイス・エイジングの考え方です。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2021年4月2日号

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