前に家の全塗装をし、屋根瓦を点検して棟の漆喰を塗り直したのは十数年前だったか。けっこう大がかりに足場を組み、シートで覆って作業していたのを思い出す。
家は傷む。外装も内装もライフラインも。分譲マンションと同じように修繕費を積み立てておけばいいのだろうが、強制ではないから意識しない。ときどき発生する小さな故障は、その都度、“泥縄”で修理している。
考えると、屋根の軒裏に張った板がところどころ変色して黒ずんでいるのは樋の排水不良のせいだ。今日、掃除をした樋だけではなく、玄関まわりの樋が詰まったこともある。その軒裏も板が変色している。うちの樋は樹脂製ではなく、鉄とステンレス製だから、鉄の部分に塗ったペイントが錆(さび)で浮いている部分もある。
そろそろオーバーホールか──。
旧知の塗装業者(社長・わたしと同年)に電話をして、水曜日に来てもらった。彼は家のまわりを一周して、「××円くらいかね」と、あっさりいった。彼はいつも丼勘定で、人工(にんく)と材料費だけで見積もりをする。「いまは仕事が立て込んでるから、半月ほど待ってくれるかな」「はいはい、了解」
家は傷む。メンテする住人がいないといけない。
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する
※週刊朝日 2021年5月7-14日合併号