一律に「オンラインにしろ」というわけにはゆかないし、一律に「対面に戻せ」というわけにもゆかない。最適の組み合わせは大学が決めるべきだ――大学に対して対面授業実施を求める文部科学省の姿勢を、内田樹氏はこう批判する。現在発売中の『大学ランキング2022』(朝日新聞出版)から紹介する。
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大学はがんばっていると思う。オンライン授業そのものは技術的には20年くらい前からやろうと思えばできたけれど、大学教員たちはほとんど関心を持たなかった。授業は対面で行うべきという思い込みがあったからである。「謦咳(けいがい)に接する」という。師の身近にいて、その息遣いに触れなければほんとうの教育は成り立たない。多くの教員たちはそう思い込んでいたと思う。
オンラインをしようにも、コンピューターを使いこなせない者も年配の教員には多かった。しかし、コロナ禍を奇貨として、日本の大学教員のコンピューターリテラシーは短期間に驚くほど向上したと思う。教員同士でオンライン授業に必要なコンテンツの作り方や講義の進め方を教え合い、スキルは高くなった。
これまで大学では、学生は主体的に自学自習すべきだという前提があって、高校までのように教員が一人ひとりの学生をケアするという発想がなかった。だから、廊下で教員に質問したり、オフィスアワーに研究室のドアをたたいたりする学生には親身な指導をするが、そのような積極性を欠いた学生には手を伸ばさずにきた。学力もあり、知的好奇心もありながら、いまひとつ積極性に欠ける学生たちをいわば切り捨ててきたのである。
オンライン授業のおかげでそういう学生たちと教員の間にもコミュニケーションが成立するようになった。彼らからすれば教員に個体識別され、個人的な質問に答えてもらえるというのはこれまでになかった経験だった。その結果、学期途中で脱落する学生は減り、平均成績も上がった。これまでそういう「積極性の足りない学生」を大学は組織的にネグレクトしてきたことがオンライン化によって可視化されたのである。