教育上オンラインにアドバンテージがあるという点はいくつも挙げることができる。ゼミや論文指導でも、研究室で対面するとなると、時間を合わせるのがたいへんだが、Zoomならば教員も学生も自分の家で、空き時間にできる。
以前なら「授業を休むしかない」という状況でも授業が受けられるようになった。例えば、体調が悪くてとても大学に行く元気はないけれど、自宅のこたつから授業を聴くくらいならできるということだってある。授業のある日と就活のセミナーの日が重なったけれど、移動途中の喫茶店でパソコンを開いたら授業に間に合ったということだってある。
教室でまわりの学生と交流する機会は失われたが、逆にまわりの学生と自分を比較して優劣を気に病むというストレスはなくなった。教員が一部の学生ばかりと親しくして、自分は無視されているのではないか……というような親疎の差を意識するということもなくなった。
■固定的なレギュレーションで大学の手を縛ってはならない
いま、文部科学省は対面授業を増やすように大学に要求しているようだが、対面とオンラインの比率については大学の自己裁量に任せてよいと思う。大学によって学生に何をどう教えるかはずいぶん違う。一律に「オンラインにしろ」というわけにはゆかないし、一律に「対面に戻せ」というわけにもゆかない。最適の組み合わせは大学が決めるべきだ。
学生たちはキャンパスに行くことができず、学生同士の交流もなく、部活も停止しており、ある意味で大学教育は危機的な状況にある。どうやってその欠損を補うか、できることは大学ごとにずいぶん違う。文科省は大学にフリーハンドを与えるべきだ。固定的なレギュレーションを定めて大学の手を縛るということをしてはならない。
もちろんオンラインには限界がある。オンラインは本質的にon demand である。学生は「メニュー」から「料理」を選ぶしかない。しかし、実際のキャンパスでは、学生たちは予測もしない出会いを経験し、受けるつもりのなかった科目を履修し、入るつもりのなかったクラブに勧誘されて、大学生活に「巻き込まれる」。それがある意味で大学生活の最も豊かな部分である。このby accidentの出会いだけはオンラインでは創り出すことができない。それはどうしても対面授業によってしか担保されない。
オンラインと対面をどう組み合わせて、ハイブリッド授業の仕組みを作り上げるか。そのための創意工夫がいま大学に求められている。
■内田樹(うちだ・たつる)
神戸女学院大学名誉教授、凱風館館長。1950年生まれ。東京大学文学部卒。東京都立大学大学院人文科学研究科修了。著書に『サル化する世界』『直感はわりと正しい 内田樹の大市民講座』など。
(構成/小林哲夫)
※『大学ランキング2022』より