代表監督の経験は日本代表が初めてのザッケローニ。だが、選手を尊重する柔軟性で、信頼を集めている(撮影/小内慎司)
代表監督の経験は日本代表が初めてのザッケローニ。だが、選手を尊重する柔軟性で、信頼を集めている(撮影/小内慎司)

 かつてないほど選手からの信頼を集める日本代表監督、ザッケローニ。裁量を与えることで自立したチームになっている。

 ザック・ジャパンで際立つのは、選手たち自身がチームを動かし、さらにチームづくりに深くかかわってきたことだ。それは裏を返せば、現監督のザッケローニが選手の側に大きな裁量を与え、選手の考えを懐深く受け入れてきたということでもある。

 監督という生きものは、自分の色を出したがるものだ。まして就任直後なら、前任者との違いを強く打ち出す場合が多いが、このイタリア人監督は当初からそんなそぶりすら見せなかった。

 ザッケローニ本人が「チームの土台が築けた」と自信を持って振り返るのが、2011年1月のアジアカップだ。就任して最初の公式戦で、半年前にベスト16まで駆け上がったW杯南アフリカ大会の遺産をそのまま生かすことに徹した。

 長谷部に続けて主将を任せ、遠藤、本田、長友、川島と、幹になる選手とその組み合わせを変えなかった。戦術面でも選手個々のポジショニングは細かく指示したが、戦術を押しつけるようなことはなかった。

 前任者の築いたチームと戦術を壊すのではなく、それを受け継ぎ、生かしながら少しずつ色をつけていく。決して簡単ではない作業を滑らかに進められたのは、「選手のメンタルまですべてお見通しの観察力」(加藤秀樹・チーム付き広報)があったからだ。

 ザッケローニは南アフリカW杯における日本のサッカーに好感を持っていたという。就任当初から、選手の練習に取り組む姿勢や向上心の高さにも触れていた。南アフリカでチームが手にした自信も感じていたのだろう。だからこそ、時に戦術的な決まり事にかかわる部分でも、選手の言い分を柔軟に受け入れられた。

 象徴的だったのはアジアカップ決勝の交代策だ。監督が意図したポジション変更をピッチにいる選手側が押しとどめ、5分ほどのやりとりの末に、監督は選手の意図をくみ取った交代策を打った。ピッチの感覚を優先させた選手の主張と、それを尊重した監督の柔軟さ。かつてなかった歴史的なシーンだった。

「負けたら監督のせいで、勝てば選手のおかげと常に言う。人間性に優れた人」

 長谷部は信頼感を口にする。イタリアでプレーする長友は「こんなに日本人に近いイタリア人はいない」と評した。

 一方、ザッケローニは、「向上心」や「団結力」といった言葉を使い、「日本人の相手に対する心遣いや礼を尽くす文化は素晴らしい」と話す。両者の信頼関係は簡単に崩れそうもない。

AERA 2013年6月17日号