「通勤電車では携帯アプリで自宅にいる2匹の様子を遠隔チェック。仕事や私生活で落ち込むことがあっても、家に帰ればこの子たちが待っている……独身で一人暮らしの私はそれだけで本当に癒されました」
2匹の体調が良いときは、伊藤さんの帰宅を出迎えた後に大運動会。室内をぴょんぴょん跳び回りながら、「見てますかぁ?」と言わんばかりにチラチラと伊藤さんの様子をうかがう。
「私の帰宅に興奮するというよりは『僕たち今日も元気ですよー!』とアピールするために、『さあ、今日も始めるか』と、わざわざやってくれる感じ(笑)。2匹とも普段はほとんど鳴かない静かな子たちで、アプリで見ていると帰宅直前までクッションの上でまったり寝ているので、そのギャップがすごく面白いんです」
その2匹の存在がより大きく感じられたのが、コロナ禍だ。昨年春の緊急事態宣言後、伊藤さんの生活も一変。出社は一切なくなり、すべての業務が在宅リモートワークに切り替わった。感染収束が見えず、会食は自粛という状況下で、友人や同僚と直接会える機会が失われ、同僚たちとの何気ない雑談も消えてしまった。
そんな中で漠然とした不安や孤独を感じることが増えていったという。
「自宅に引きこもるような環境はメンタル的にかなりきつい。猫たちがいなかったら病んでいたかもしれません」
彦星君は、飼い猫ながら伊藤さんにとってはパートナー的な存在感。感染拡大の報道に伊藤さんが顔を引きつらせていても、ふと隣を見れば泰然と座る彦星君がいた。その横顔を見れば心強くなり、「改めて気をつけて生活しなくては」と身が引き締まる思いがしたという。
「夏彦も温もりが恋しくなると、兄のように慕う彦星のそばに行き、ペロペロなめてもらって安心する。その様子が本当にかわいくて見ているだけで癒されます」
2匹の猫たちに救われた伊藤さんだが、予期せぬ事態が愛猫を襲う。夏彦君に深刻な病気が発覚したのだ。夏に、なかなか治らない外耳炎に不安を感じて大学病院を受診したところ、リンパ腫が見つかった。検査の結果は悪性だった。