「でも、考えるよりも、行動することで何らかの結果が得られるんだなと思いました。それまでの僕は、考えすぎて動けなくなっていた」(渉さん)。
■ 失敗は仕事している証拠 上司の言葉に助けられ
何社目かの応募でようやく採用されたのは、スーパーの総菜部門。簡単な調理をし、パッケージ詰めをするのが仕事だ。
バイトという立場だが、社会に出て働くという経験は初めて。渉さんは「初出勤のときは、緊張でガチガチだった」という。
忙しいときは職場がピリピリした雰囲気になり、上司に急かされたり、怒られたりすることもある。
「不器用なので叱られることも多くて、初めのころは、泣いて帰ることもありました」(渉さん)
それでもやめなかったのは、「また就職活動するのが嫌だったから」。毎日家に帰ると、家族にその日あったことや仕事の愚痴を聞いてもらい、心を落ち着かせていた。
2週間ほどたち、上司に命じられて初めて一人で揚げ物に挑戦することになった。しかし、食材と一緒にビニールの切れ端を一緒に揚げてしまうという大きなミスをしてしまった。
「やっぱり自分はだめなのか……」
渉さんは激しく落ち込んだが、その日の仕事を終えた後、上司から意外な言葉をかけたれた。
「失敗してるってことは、仕事している証拠」
上司のそのひとことで、なんとか立ち直ることができたという。
それから、自分なりに仕事を覚えようと、Excelを使って仕事の内容リストをつくったところ、上司に褒められたのも励みになった。
渉さんの父親はこう振り返る。
「あるとき、渉がバイトの業務で腕に火傷をして帰って来たことがありました。『無理!』という言葉が出たので、『またか』とドキッとしたのですが、翌日は軟膏を腕に塗り、『行ってきます』と出かけていきました。あれは、過去の『無理!』とは違って、どうしたら一人前に仕事をこなせるようになるんだろうという気持ちから出た、前向きな『今は無理!』だったんです」
渉さん自身も、成長を実感しているようだ。