講習の終わりに思わず泣き出してしまい、それ以来行けなくなってしまった。そのころの渉さんは、誰かに強く言われるたびに、すぐに泣いてしまっていた。
■「毎日が空虚です」 23歳で限界がくる
高校卒業後、家事手伝いのようなことをしているうちに、また数年がたった。もちろん収入はなく、祖母にもらうお年玉でなんとかやりくりする日々。
「このまま変わらなければ、どうなるんだろうなー。お金も欲しいなー」
ぼんやりと、そんなことを思いながらも、なかなか動けなかった。
23歳になったある日、「限界が来た」(本人談)。
14年間一緒に暮らした愛犬が亡くなったこと、姉に子どもが生まれて「叔父」という立場になったことがきっかけになった 。
「いつまでも子どもではいられない。いよいよ働かなくちゃいけない」
渉さんは、悩み苦しんだ末に、勇気を振り絞った。以前から母親に勧められていた「福岡わかもの就労支援プロジェクト」に入塾。
鳥巣さんは、最初のコーチングでの渉さんの言葉が印象に残っているという。
「毎日が空虚です」
「何言ってんだか、と思いました(笑)。最初は、何か言うとすぐ泣いてたし、『無理!』が口癖でした。あるとき、泣き出したから『はいティッシュ』ってぽんと箱を放ったら、『投げないでください! ティッシュを投げられたら傷つきます!』って、ますます泣いていた」
プロジェクトでの就労トレーニングと、鳥巣さんの厳しくも温かいコーチングの成果で、渉さんは少しずつ変わっていった。ほかの受講生たちと一緒に昼食をつくったり、山登りなどのイベントに参加したりしたのもいい経験だった。
「年代や性別が違っても、自分と同じように悩んだり苦しんだりしている人がたくさんいるんだなとわかって、気持ちがラクになりました」(渉さん)
数か月後、バイトに応募し始めた。しかし面接では緊張と不安で頭が真っ白になり、言葉が出ない。なかなか採用には至らなかった。