誰かの後押しで前を向けることもある※写真はイメージです(Getty Images)
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 ひきこもりの長期化を防ぎ、いかに社会生活の復帰を後押しするか。中高年のひきこもりが社会問題となっているが、支援が必要な若年層も少なくない。ほんの少し背中を押してくれる人、見守ってくれる人の存在は大きい。最初の一歩に本人の意志は欠かせないが、周囲のサポートなしでは歩みを進めることはできないからだ。佐々木渉さん(仮名、24歳)は、1年前に10年間の引きこもり生活を脱出。少しずつ自分の足で歩き出そうとする渉さんと、支える周囲の人たちを取材した。

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 アルバイトで初めて給料が出た日、渉さんはコンビニでウイスキーの小瓶を買ってきて食卓に置いた。いつも自分を見守ってくれている父親のために購入したのだ。

「『一緒に飲もうか』と言ってくれて、思わず涙が出ました。今まで、すぐ泣くのは息子のほうだったんですけどね(笑)」(渉さんの父親)

 それは偶然にも、父の日の前日だったという。「一生忘れることのない思い出」と渉さんの父親は話す。

 渉さんは、中学の入学式直後に不登校になり、10年間の引きこもり生活を経験した。23歳で終止符を打つまで、バイト経験はゼロ。家族以外と話すこともなるべく避けてきたという。それでも現在は、スーパーで週4回のアルバイトをしている。働き始めて、もうすぐ1年になる。

「会うたびに、いい顔つきになっていってます」

 渉さんのサポートをしている一般社団法人福岡わかもの就労支援プロジェクトの鳥巣正治さんは言う。同プロジェクトは、子どもが引きこもった経験がある親が中心となり、コーチングでひきこもりやニートの社会復帰を支援する組織だ 。

「初めてここに来たときは青白い顔をしていて、表情もあまりなかった。ガリガリにやせて、折れそうな腕をしていましたよ」(鳥巣さん)

 平成27年に内閣府が行った調査によると、国内の15~39歳の広義のひきこもりは、推計54万1000人。そのうち、ひきこもりの期間が「7年以上」という人は34.7%と、6年前の前回調査から2倍以上に増加し、長期化、高齢化の傾向があることも判明している。長期化を防ぎ、若年層の社会復帰を促すためには、同プロジェクトのような第三者の支援が有効な場合は少なくない。

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自動車運転免許の教習所で大泣きした過去