写真はイメージ(Getty Images)
写真はイメージ(Getty Images)

例えば、ギャンブル依存症。競馬やパチンコ、カジノなどにのめり込み、興奮を求めて次第に賭け金が増えていく。やがて、勝負を途中でやめようとしてもうまくいかなくなり、ギャンブルをしていないと落ち着かなくなる。負けたお金をさらなるギャンブルで取り返そうとし、自身のギャンブルに関して周囲に嘘をついたり、借金をしたりする──こういった症状が連鎖的に表れてくるのが典型的な特徴だという。

 ある精神科医は、ストレスへの対処がうまくない人、ギャンブルが身近にある環境にいる人などは、リスク因子が高いと指摘する。また、リタイアして時間を持て余す中高年層は特に要注意だという。コロナ禍で人と接する機会が減り、孤独を感じる時間が増えた状況も、依存症への陥りやすさを高めている。

 ある中央官庁にキャリア官僚として勤めていた50代前半の中野タダシさん(仮名)は、競馬で人生が暗転した。東京大学法学部卒。結婚し子宝にも恵まれ、いわゆるエリート街道を走ってきた。ある時、友人に競馬を見に行かないかと誘われ、よく知らないまま2万円ほど賭けたところ、大穴を当てて70万円を手にした。

 いわゆるビギナーズラックだったわけだが、タダシさんはそれ以降、競馬にはまってしまった。負けが続いても、最終的には勝てるという根拠のない確信があった。負けた時のことはよく覚えていないのに、勝った時のことはよく覚えていた。毎週10万円単位で馬券に投じるようになり、占いで「ラッキーナンバー」と言われた数字から買う馬券を選ぶなど、「神頼み」的な行動で運をコントロールできると信じるようになってしまった。

 数年後、競馬の損失によって抱えた借金は約500万円に膨らみ、妻とは離婚。自己破産して、中央官庁も辞めざるを得なくなってしまった。運送会社に転職したが、競馬の借金を返済するために客が支払った代引き料金を懐に入れたことが露見。刑事事件にこそならなかったものの会社はクビになり、現在は引っ越しのアルバイトで生計を立てている。競馬は今も、続けている。

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