なぜ依存症に陥ってしまうのか。キーになるのは、神経伝達物質のドーパミンだ。脳の「報酬系」と呼ばれる神経回路で分泌され、快感や多幸感をもたらすことから“幸せホルモン”と呼ばれることもある。依存症などの治療に力を入れるライフサポートクリニックの山下悠毅院長がこう語る。
「快楽をもたらすドーパミンを簡単に出す方法が、依存物質と言われるアルコールやニコチンなどを摂取することなんです。その瞬間は快楽を感じられますが、ドーパミンは同じ刺激に対しては耐性がつき、次第に出づらくなってくる。このため、より多くの刺激を得ようと、酒やたばこの摂取量が増えていくのです」
もっと、もっと──快楽への欲求がエスカレートしていく。さくらの木クリニック秋葉原の倉持穣院長はこうした状態を「ブレーキの壊れた車」と例える。
「初めは体に害のない少量の飲酒習慣でも、次第にアルコール摂取への渇望は強まっていきます。やがて意志の力を渇望が上回るようになり、ひとたび飲みだすと止まらなくなるといったアルコール依存症の症状が出てくる。アリ地獄の穴にアリが落ちていくようなイメージで、ひとたび転落が始まると、抜け出すことは困難です」
アルコール依存症には、「離脱症状」も大きくかかわっているという。飲酒から時間が経つと、次第に体内に残ったアルコール量は減っていく。この時に表れるのが離脱症状で、イライラして怒りっぽくなったり、眠れなくなったりと、強烈な不快感を味わう。
このような状態の時に困難や苦痛に直面すると、助けを求めてまたアルコール摂取に走ってしまう。大量のアルコール摂取は肝臓を痛め、肝炎や肝硬変、膵炎などの病気につながることは言うまでもないが、それでも、目の前の困難から逃れるため、酒を手放せない。まさに、「わかっちゃいるけど、やめられない」状態だ。
ここまで、アルコール依存症の話を中心にしてきたが、前述した「行為依存症」に苦しむ人も世の中にはたくさんいる。