「人から評価されたり、比べられたりすることに対するプレッシャーにさらされやすい人は依存症になりやすいと考えられます。あとはやはり、普段から強いストレスのかかる仕事をしている人は要注意です。ベトナム戦争の帰還兵の中でヘロイン依存症になるケースが多かったように、過酷でつらい状況にいる人は、依存に走りやすくなる傾向があります」
前出の倉持院長は、依存症になりやすい六つの性格を挙げている。
・自己肯定感が低い=NOと言えない。嫌われるのが怖い
・白か黒か思考、100か0か思考=曖昧なものが許せない完全主義
・ネガティブ思考=不安になりやすい
・過度な自立心=他人に弱みを見せるのは格好悪い。負けず嫌い
・過剰な努力=未来の自分への過信、現在の自分の否認
・のめり込み=何かへの過集中と没頭(アディクション)
では、依存症から抜け出すためにはどうすればよいのだろうか。
ギャンブル依存症の場合、患者は「自分は最終的には勝てる」と思っているなど、考え方が偏っている場合がほとんど。こうした偏りを見直し、日常の金銭管理の方法を変えてギャンブル欲を低減させるなどの、認知行動療法と呼ばれる治療プログラムが有効だという。
また、依存症は社会で孤立している人がなりやすく、症状の進行とともにますます孤立していくため、「孤立の病」とも言われている。そのため、医療機関以外にも、同じ依存症に悩む人が自発的に集まって回復を目指す「自助グループ」などに参加する選択肢がある。前出の松本センター長はこう語る。
「アルコール依存症の場合、『もう飲まない』という決意を維持し続けるのは難しい。孤独に陥らず、同じ問題を抱えている人の話を聞くことは非常に大事です。自助グループなどに参加して、仕事帰りに顔を出すことをお勧めします。人とのつながりを作って症状から回復し、元の生活を取り戻した人は多くいます」
また、現在、依存症の臨床現場で注目されているのが「自己治療仮説」だ。依存症は従来、依存性のある物質や行為がもたらす「快感やハイになる気分」(正の強化)が動機となって引き起こされると考えられてきた。
だが、患者たちをよく観察すると、その人が感じている苦痛の緩和(負の強化)のために何かに依存していることがわかってきた。前出の倉持院長はこう語る。
「飲酒は人生そのものに深く結びついている。アルコールという『やさしい悪魔』が、仕事や対人関係など、生きる中で生じた都合の悪い問題を見えなくさせてくれる。減酒や断酒に取り組むことは、酔うことで目をつぶってきた問題を直視するつらい作業ですが、それは人としての成長、成熟につながっていくのです」
一人ひとりが抱える「生きづらさ」に光を当てること。これが依存症の予防になるだけでなく、依存症からの回復の道筋を示してくれることだと考えられるという。
何かの拍子に、誰もが陥る可能性がある依存症。「アリ地獄」の気配には、敏感になりたいものだ。(本誌・村上新太郎)
※週刊朝日 2022年12月9日号