猛暑に加えて無観客での試合。東京五輪は過去の大会とは違う光景が広がっている。2大会連続で取材する記者が、選手も報道陣も戸惑う「コロナ五輪」の現場を歩いた。AERA2021年8月9日号に掲載された記事を紹介する。
【写真】トライアスロン女子のレースは雨にもかかわらず沿道に多くの観客がいた
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海沿いのビーチバレーボール会場で、DJの声が響く。名前を呼ばれた選手が一人ずつ入場し、手を上げて笑顔で場内を見渡す。だが、1万2千の客席にほとんど人はいない。まばらな拍手が鳴るばかりだ。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、東京五輪は一部の地方会場を除いて無観客開催となった。7月27日の男子1次リーグでは、2008年北京五輪王者の米国ペアと16年リオデジャネイロ五輪王者のブラジルペアが大接戦。しかし、DJが時折「人は少ないんですけど、できる限り拍手を」と呼び掛けるほど会場は静かだった。
ビーチバレーは12年ロンドン五輪、リオ五輪で最も観客動員数が多かった。米国のフィル・ダルハウザー(41)は言う。
「いつもはたくさん観客がいて音楽が流れ、パーティーのような雰囲気の中でプレーします。無観客はとても残念で悲しい」
■「自粛」掲げる横で観戦
連覇がかかっていた体操女子個人総合を欠場したシモーン・バイルス(24)=米国=も、精神面の不調の理由の一つとして「無観客」を挙げていた。
一方、隣の会場のトライアスロン。バイク(自転車)とランは公道を走るため、駆け付けた人たちがたくさんいた。小3の長男と小1の長女を連れて観戦に訪れた横浜市の会社員男性(43)は興奮気味に言う。
「間近で見る競技はものすごい迫力。開催が決まったときから、子どもと一緒に見たいと思っていた。何枚かチケットを購入できたけど無観客になってしまったので、見られるものを探して今日ここに来ました」
沿道には数十メートルおきに「観戦自粛」を呼び掛けるプラカードを持った人が立っていた。効果はあまりなかったようだ。交通整理の男性ボランティアは「自粛であって禁止ではないので観戦をやめるようには言えません」と困っていた。