帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
柴又帝釈天=2019年12月、東京都葛飾区 (c)朝日新聞社
柴又帝釈天=2019年12月、東京都葛飾区 (c)朝日新聞社

 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回は「縁起をかつぐ」。

【写真】柴又帝釈天

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【限界】ポイント
(1)私は時に縁起がいい、悪いを気にすることがある
(2)昔、手術に明け暮れていた時も縁起は無縁でなかった
(3)自力の限界を知っているからこそ、縁起が大事に

 皆さんは縁起をかつぐほうですか。そんな非科学的なことは一切、信じないという方もいらっしゃると思いますが、私は時に縁起がいい、悪いを気にすることがあります。

 最近では、病院の近くの賃貸マンションに引っ越した時がそうでした。いい部屋が空いていると勧められた時は、とりあえず見に行こうかという程度だったのです。ところが玄関の扉に「217」という番号があるのを見て、この部屋を借りようという気になりました。それは私の誕生日が2月17日だからです。この数字の符合に、何か縁起を感じてしまったのです。

 もう四十数年前になりますが、都立駒込病院に勤務して手術に明け暮れていた時にも、縁起は無縁ではありませんでした。その頃はまだエコーとかCTとかといった画像診断がほとんど行われず、食道がんの手術でも、内視鏡で食道の内側の様子がわかっているぐらいでした。

 すべては開胸してからが勝負です。例えば、がんが気管支に甚だしく浸潤してしまっていることがわかると、「あっ! これは切除不能だ」と手術をあきらめて、胸を閉じることになります。逆に、なんとかできるとなれば、肺外科の専門医に応援を求めて、気管支合併切除といった難易度がきわめて高い手術に挑むこともあります。

 だから、いつも祈るような気持ちで開胸しました。そして、手術ではベストをつくすのですが、患者さんのその後の経過は様々です。どんなにうまく手術ができても、順調に回復するとは限りません。ですから難度の高い手術にもかかわらず、患者さんが元気になってくれると、誰かにお礼を言いたくなりました。

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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