西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、大谷翔平選手のすごさや魅力、本塁打王の可能性などを解説する。
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エンゼルスの大谷翔平が40本塁打を超え、20盗塁を記録し、投手として10勝に届こうとしている。道なき道を歩み続ける男を、もはや評論するなんて、おこがましい。いくら技術的なことを考えてみても、さらに想定の上を行く対応力だってある。
先発投手として投げた次の日のデーゲームで「1番・DH」として普通に出場している。投手は登板翌日は腕だけでなく、肩甲骨周りの筋肉が張る。そういった中でフルスイングをし、グラウンドを駆け回っている。登板翌日は、投手は疲れを残さないように、トレーニングを行うが、それも試合前、というか球場に来るまでに消化しているということか。「1日24時間をどう使っているのだろう」というのが、私の率直な疑問だ。
野球というスポーツのレベルはどんどん上がっており、試合で戦うための「準備」の重要性は我々がプレーした時代の比ではない。投打ともに、どれだけ少ない時間で効率よく準備するか。そのためには集中力が必要であろうし、気持ちの素早い切り替えも必要になる。
日米、世界の少年少女が大谷翔平のような二刀流を目指そうとするならば、極端なことを言えば「野球以外はいらない」と思うくらい、野球を愛さなければいけないだろう。そして、ルーティンをどう簡略化し、工夫するか。試合で戦える体を維持するだけでなく、どう強化につなげていくか。口では簡単に言えるが、できる人間は稀有(けう)な存在だ。そこに身体的な能力の高さも求められる。
そしてあの笑顔。誰に対しても嫌な顔をせず、対応する。「作られた笑顔」ではなく自然体だから、見る者もひきつけられる。大谷が野球をやってくれている。そこに球界は感謝しなければいけない。
ペナントレースは残り1カ月の戦い。優勝を争うチームは、勝つために大谷との勝負を避ける可能性は高い。そういった中で、1球を仕留める集中力がどれだけ維持できるかが、本塁打王を取れるかのポイントとなろう。投手としては、今の投球をしていれば、1、2点に抑えられる。できれば、100球前後という球数の中で七回まではいきたい。救援投手のイニングを減らせれば、勝利投手のチャンスは増える。