このような病を患っている本人が苦しい立場に陥っていることに加え、家族などその周囲にも色々な影響があります。特に、昨今のコロナ禍では外出自粛で孤立された生活に放置された認知症有病者の生活困窮が増しました。認知症を患っている当事者だけではなく、社会的な問題なのです。
1994年に「国際アルツハイマー病協会」は、WHO(世界保健機関)と共同で毎年9月21日を「世界アルツハイマーデー」と制定し、また、9月を「世界アルツハイマー月間」と定め、啓蒙活動など様々な取り組みを世界中で促しています。
日本では『前を向いて、出会い、つながる。そこに「希望の道」がある。認知症とともに歩いていこう』のようなスローガンで、認知症有病者の人権と意思を大切にし、住み慣れた地域で暮らしていける共生社会の意識を推進している傾向があります。
一方、欧米では認知症を疾患と捉えているので「Know Dementia, Know Alzheimer’s」というキャンペーンで、知ることに解決策があり、早期診断によって認知症を早めにコントロールすべきという考えが目立ちます。
いずれにしても、「文明の老人」が活き活きしている社会を実現するには有病者であろうと健常者であろうと、認知症への意識、知識、そして理解を高めることが不可欠です。
今年の敬老の日は9月20日です。その翌日の21日が世界アルツハイマーデーです。もし、その日に街でオレンジ色を身に着けている人が目線に入り、夜景では建物などがオレンジ色でライトアップされていたら、ちょっと考えてみましょう。なぜ、オレンジ色なんだろう、と。
(渋沢健)
◆しぶさわ・けん シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役、コモンズ投信株式会社取締役会長。経済同友会幹事、UNDP SDG Impact 企画運営委員会委員、東京大学総長室アドバイザー、成蹊大学客員教授、等。渋沢栄一の玄孫。幼少期から大学卒業まで米国育ち、40歳に独立したときに栄一の思想と出会う。近著は「SDGs投資」(朝日新聞出版)