「自分は文明の老人たることを希望する。」
「しかして文明の老人たるには、身体はたとい衰弱するとしても、精神が衰弱せぬようにしたい。」
「私は単に肉塊の存在たるは人として甚だ嫌うので、身体の世にある限りは、どうぞ精神をも存在せしめたいと思うのである。」
人生最後、肉魂の存在が尽きるまで栄一の精神は健在で、そういう意味では、現在も存在感があります。
ただ、世の中には、身体は健常なのに精神が不本意に著しく衰える方々の存在が少なくありません。WHO(世界保健機関)の試算によると、世界全体の認知症患者の数は2019年の時点で5520万人を上回ったようで、2050年までに2・5倍の1億3900万人以上になると推計しています。30年後の日本人の数をはるかに上回る桁違いの人数です。
一方、現在の日本では2020年の時点で65歳以上の高齢者の認知症有病率は16.7%、約602万人と推計されています。単純比較では世界の1割以上の認知症有病者な日本人ということになります。
また、OECD(経済協力開発機構)によると日本の認知症有病率は2.33%であり、OECD加盟国(平均1.48%)のうちで最多であるそうです。日本は認知症大国なのです。
日本に高齢者が多いことだけが原因ではなさそうです。認知症とは単なる加齢による物忘れとは異なり、「おじいちゃん、最近ボケたよね~」ではないのです。認知症とは疾患です。
加齢によって物忘れは普通ですが、ほとんどの場合は部分的です。そして、忘れ物を自分で探そうとします。一方、認知症有病者の場合は完全に物忘れしています。そして、誰かが盗んだ等、他人のせいにする傾向があるようです。
この認知症の6割以上を占めると云われるアルツハイマー病は脳の神経細胞の減少や、海馬という記憶に関係する場所が萎縮することで記憶障害が発生します。人物や場所、時間といったものの認識ができなくなり、身体的にも機能低下して体が不自由になる場合もあるのです。恐ろしいことに、脳の重さが140グラムぐらい縮小することもあるようです。これは、オレンジの一個分です。