04年アテネ五輪で北島康介が二つの金メダルを取った後、再始動するときは本拠の東京スイミングセンターでジュニアの選手と一緒に練習しました。いつも戻れるベースがあるという安心感は、選手にとって大切なように思います。
強豪国の豪州は12月の世界短水路選手権(UAE・アブダビ)への派遣を取りやめたと聞きました。選手だけではなく、コーチやスタッフも五輪で長期間ホームを離れて、代表チームとして行動してきました。さらに年末も世界短水路でホームを離れることの負担の大きさを配慮したのでは、と受け止めています。
簡単に言うと、「おうちへ帰ろう」です。特別な体制を取って挑戦した目標の大会が終わったら、次に進むために、選手は一度ホームに帰ってリセットする必要がある、と思います。
指導者も同じです。このまま突っ走って3年後のパリ五輪に向かう選択肢もあるかもしれませんが、東京五輪までのやり方で間違いなかった、と言えるコーチは少ないと思います。ホームに戻って、ゼロからコーチングのやり方を見直す時間を持ったほうがいい。家族と過ごしたり自分の趣味を楽しんだり、私生活も大切にする中で、「もう一度、五輪に向けて戦いたい」という気持ちがわき上がってきたら、新しい服を着てチャレンジすればいい。私自身、そう考えています。
(構成/本誌・堀井正明)
平井伯昌(ひらい・のりまさ)/東京五輪競泳日本代表ヘッドコーチ。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる』(小社刊)など著書多数
※週刊朝日 2021年10月1日号