ケチャップ、酒、ウスターソースを煮詰めただけのソースだが、よくこねて、ふっくらジューシーなハンバーグとの相性抜群。最高です!(撮影/齋藤圭吾)
ケチャップ、酒、ウスターソースを煮詰めただけのソースだが、よくこねて、ふっくらジューシーなハンバーグとの相性抜群。最高です!(撮影/齋藤圭吾)

 いろんなものを食べて生きる私たち。特にコロナ禍、自炊に明け暮れた人も多いだろう。高山なおみさんの著書『自炊。何にしようか』は、リアルな自炊の記録が詰まった本だ。AERA2021年10月4日号の記事を紹介する。

【料理写真】ソース焼きそばを作ったら、少し取っておき、ご飯と炒めてそばめしに

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 とにかくおなかがすく本だ。

 何って、料理家で文筆家の高山なおみさんの数年ぶりの料理本『自炊。何にしようか』。370ページを超える厚さだが、発売後11カ月がたった現在、6刷。今なおヒット中だという。

 2016年から神戸で一人暮らしを始めた高山さんが「新しく見えてきたこと、気づいたこと、忘れないように書いておいたメモ」(同書から)をベースに、約100レシピを紹介している。

■添えられたつぶやき

「自炊。」というタイトルの通り、レシピのほとんどが、高山さん自身が、普段から作ってきた料理。例えばハンバーグの残りを次の日、グラタンに衣替えしたり、メンチカツに変身させたり。

「ハンバーグはいちどに焼いてひとつを食べ、残りはラップに包んで冷蔵庫に入れておけば、サンドイッチにしてもいいし、ほぐしてトマトソースと合わせれば、即席ミートソースにもなる。火の通ったひき肉と考えれば、まだまだいろんな料理に使えそう」(同)

 料理ごとに添えられた、そんな高山さんのつぶやきが、ますます読む人のおなかを鳴らす。自分のためにする料理だから、自分がおいしいものを作りたい。そんな当たり前の願いをかなえる、自炊のアイデアも満載だ。

高山なおみ/1958年、静岡県生まれ。料理家、文筆家。著書に『日々ごはん』など多数。『自炊。何にしようか』は、第8回料理レシピ本大賞 in Japan入賞(撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
高山なおみ/1958年、静岡県生まれ。料理家、文筆家。著書に『日々ごはん』など多数。『自炊。何にしようか』は、第8回料理レシピ本大賞 in Japan入賞(撮影/写真部・戸嶋日菜乃)

 それにしても、高山さんにとっては、久々の料理本。その理由を、ご本人はこう語る。

「いろいろな過渡期が重なったからでしょうね。何かが一回壊れて、ゼロというか、マイナスになってしまった。例えば自分の食事を作ろうとするでしょ。でも何もかもゆっくりなんですよ。体が動かないんです。じっと見たり、音を聞いていたりして。台所の中を動くことから、何か切ることまで、何もかもがゆっくりで。このとき、もう私は、料理の仕事はできないと思い込んでしまった」

 重なった“過渡期”のひとつは、夫婦関係だった。

「それまで10年間ぐらい、夫婦の過渡期がずっとあって、結局は2016年に東京から1人で神戸に引っ越してきました。絵本を作り始めたのも、同じ頃。もう私は、料理の仕事はできないから、日記と絵本とエッセイだけ書いていこうと考える時期が、1年半続きました」

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