福岡 その通りですね。
おおた だから森のようちえんに触れることによって、保育者としても親としても、子どもの教育に対する立ち位置が変わるんだと思うんですよね。
福岡 ただ、教えられないけれど、誘うことはできるんです。親やあるいは先生が、森や水辺に連れて行くとか、星空を見上げるとか、夕日を見るとか。というのも、ピュシスは隠れていることが多いから。
おおた 隠れている?
福岡 単に野原をさまよっても虫は見つけられません。自然は動き回っていますから、まずは自分が止まらないといけない。そして、ロボコップみたいに自然をスキャンしていくと、あるレイヤーにまわりと同化している虫が見つかるわけです。で、一匹見つけると、次々に見つかる。ピュシスの尻尾をつかむような感覚です。それこそセンス・オブ・ワンダーです。
おおた 一個見つかると次々見つかる。その感覚が大事だという話は、森のようちえん全国ネットワーク連盟の理事長の内田幸一さんもおっしゃっていました。森のようちえんでは、誘うという意味でも見守るという意味でも優れた実践がされていると思いました。そういう優れた視点や態度が、この本を通じて一般の方々にも伝わればいいなと思ったわけなんです。
福岡 それが森のようちえんで実現できているとしたらですね、半ば道のりの峠を越えていることになると思いますよ。
おおた 道のりの峠?
福岡 子どもたちをセンス・オブ・ワンダーに誘うという目標に達しているということです。
おおた 人間はロゴスを発展させてピュシスの命令から自由になった。しかしいま逆に、自らつくったロゴスの檻に囚われている。だからいま、遠くから聞こえるピュシスの歌に耳を傾けようよと。耳を澄ますという意味で、福岡さんの『ポストコロナの生命哲学』と私の『ルポ森のようちえん』の両方を読んでもらえると、相乗効果があるんじゃないかと思います。
福岡 ぜひセットで読んでいただけたら嬉しいと思います。
【前編から続く】「勉強するのは『産めよ増やせよ』から自由になるため」 福岡伸一×おおたとしまさ対談