元朝日新聞記者 稲垣えみ子
元朝日新聞記者 稲垣えみ子
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 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣さんが友人からもらった最高に美味いミカン

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 小中学生の不登校件数、いじめ認知件数ともに過去最多を記録したそうだ。コロナ禍でマスク必着、行事は中止、給食は黙食……確かに改めて考えると刑務所のよう。そんなハードすぎる環境に何年も置かれているお子たちのことを思うと、実はお気楽に暮らしている大人として申し訳なく思う。お子には拒否権というものがないのだ。そのことを大人はもっと真剣に考えるべきだったのだ。

 だがコトは感染防止という大義から始まっているので、現状を変えるのは容易ではないだろう。なのでせめて、今すぐできるコロナ時代のサバイバル術を考えてみた。

 これだけ人間関係が制限されると、関係の圧が高まり妄想やストレスが暴発してイジメをする側になったりされる側になったりするリスクは当然高まる。なので重要なのは何があっても自分を守ってくれる「お守り」だと思う。

和歌山の友人農家から見た目は悪いが最高に美味いミカンが届く。年に一度の至福!(写真:本人提供)
和歌山の友人農家から見た目は悪いが最高に美味いミカンが届く。年に一度の至福!(写真:本人提供)

 で、私がお勧めするそれは、学校とか塾とか家とかの濃い人間関係とはなーんの関係もなく、またなーんの役にも立ちそうにない、トシの離れた「知り合い」を作ること。よく散歩しているお年寄りとか、近所の店のおっちゃんとか、ニコッと挨拶するだけでよし。若い子に挨拶なんてされたら間違いなく嬉しいから、そのうち行ってらっしゃいとかお帰りなさいとか言われるようになる。そうなればもう大丈夫。濃い人間関係で何かあって辛いとき、帰り道でいつものおっちゃんに「お帰り」と言ってもらえることは絶対的にあなたを救うはずだ。煮詰まった人間関係の「圧」がプシュッと抜けて、世の中は自分が思っているよりちょっとばかり広いのだと実感することがまずは大事なのだ。

 そして、実はその「お帰り」と言ってくれるおっちゃんだって、案外孤独で、辛いこともあって、あなたの挨拶にきっと救われているのである。人はどんな状況にあっても無力なんかじゃない。人を救うことだってちゃんとできるのだ。それに気づくことができればもう最強である。ということを私は知っている。そうこれは私のお守りなのである。

◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2022年11月14日号