「歴史とはあくまでも因果関係のなかで捉えるもので、帰納的、演繹的に考える姿勢が不可欠です。たくさんある事象のなかから帰納的に一つの歴史法則、因果関係を見いだす。それができれば違う出来事についても、自分が見いだした法則性を演繹的に使うことができるでしょう。自分が置かれている状況や時代性についても解析できますよね。それが『賢者は歴史に学ぶ』ということです」

 歴史を学ぶというと、つい暗記が必要だと思ってしまいがちだ。だが本当に大切なのは、賢者になるための科学的な思考法なのだ。

「大学で歴史を学ぶ学生の多くは研究者にならずに企業に就職します。入社試験の面接で『歴史を学ぶと何ができるの?』と聞かれたとき、愚者的な学び方をしてきた人は轟沈してしまう。でも『科学的な思考法とは何かを学びました』と、答えたらどうでしょう。その業界、会社の現状を解析して、新しい立ち向かい方を考える思考法が身についていれば、どんな業種でも必ず役に立つはずです」

 たとえば30代独身の男性が残業続きでコンビニに寄るなら何を買うだろう──といった分析にも、科学的な思考法は役に立つ。

「今、歴史学は社会から期待されず、予算も削られ、厳しい状況です。けれど歴史学には大きな可能性があると思う。歴史の魅力を広く知ってもらうためにも、これからは歴史好きの裾野を広げるような活動をしていきたいと思っています」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2022年11月14日号

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