これは個人的な印象かもしれませんが、と断ったうえで、飯間さんは横書きの心理面のメリットも挙げた。
「文章を書きたくないとき、横組みのほうが書けてしまうんです。縦書きで文章を書くときはいかにも、『さあこれから本を書くぞ』という感じになって身構えちゃう。横書きだと、アイデアをそのままダラダラ書くような感じで、心理的なハードルが下がるんです」
■横書きは気を張らない
メールやSNSも横書きだから気を張らずに言葉を連ねることができるのかもしれない。横書きにはコミュニケーションを円滑にする効果もありそうだ。
飯間さんは、「青空文庫」のアプリで近代文学などをスマートフォンで読む習慣があるという。こうしたアプリは設定を変えれば、横書きでも読める。
「例えば、夏目漱石の作品が横書きだと相当な違和感がありますが、スマホで読む場合、横幅が短いので目を大きく左右に動かさなくても楽に読めます。改行の後ろのスペースもあまり気にならない。こっちのほうが読みやすい、という意見があってもおかしくないと思います」(飯間さん)
日本語は縦書きも横書きも使える稀有(けう)な言語だ。しかし、縦書きは出版文化にかろうじて守られているのが実情といえる。
「個人的には縦でも書ける余地は残しておいてほしいと思います。しかし、紙の刊行物は読まれにくくなっていますから、小説や新聞もいつの間にかすべて横書きになっていた、ということもあり得るでしょう」(同)
横書き化が進めば表現の可能性も広がるのでは、と肯定的に捉える飯間さんは、こうも言う。
「とはいえ、今度のお前の本は横書きで出版すると言われると、『待ってください』と言うと思います。自分の本は情感に浸りながら読んでほしい。深く共感してほしいときに縦書きを求めるのかもしれません」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2021年11月22日号