まっぷるの“縦横混在スタイル”は今後も継続されるのか。竹内さんは「読み手のリテラシーにかかっている」と言う。

「地図やガイドブックの編集で、特にこだわっているのはフォントです。縦書きと横書きでも異なるし、同じページでも使い分けています。これを間違うと、先輩編集者にすごく怒られました。しかし、そういうリテラシーが次世代にはほとんど継承されていません。縦書き、横書きの使い分けも、そこに込められた意図が読者に伝わらなければ、私たちのやっていることは無意味になります」

■“団塊ジュニア”が鍵

「違いの分かる読者」は団塊ジュニアより上の世代だという。

「団塊ジュニアの方たちが引退して旅行もしない年齢になると、今の体裁は維持できなくなるかもしれませんね」。竹内さんは少し寂しげに、そうつぶやいた。

「縦書きでつづられた明朝体活字の美しさや、文庫本のクリーム色がかった紙に昔ながらの明朝体で印刷されている縦書きの文字を読むのは、至福のひと時です」

 こう話すのは日本語のスペシャリスト、三省堂国語辞典編集委員の飯間浩明さん(54)だ。

 日本語の文字はもともと下に続くように書かれている。行書や草書など書道の文字も縦書きを前提に、続け字でつづる「連綿」という書法が用いられる。

「もともと縦だったものを横にするのには、かなり違和感があって。私の内部には、縦書きの血が流れている気がするんですけれども。ただ、これは何ら論理的に正当化できない趣味の問題なんです」

 そう言いながら、飯間さんは横書きのメリットを次々と挙げた。その一つが、顔文字や絵文字を自由に配置できることだ。

「顔文字を縦で組むと顔が崩れて意味をなさなくなる。アルファベットと同じことが起こるわけです。逆に言うと、横書きなら顔文字や絵文字が使える。文末に配しても、下のほうに偏らないメリットもあります。顔文字・絵文字文化=横書き文化ということですね」

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