国内旅行は様相が異なる。横書きと縦書きを混在させているのが、昭文社の「まっぷる」だ。

 横書きの本は、左上から右下に読み進める「左起こし」で文字を配置する。このため、読み進める際に左側にページをめくっていく「左開き」が基本だ。

 ところが、まっぷるはほとんどが「右開き」。広報担当の竹内渉さん(52)が理由を説明する。

「縦書きが含まれる以上、左開きはNG。右開きを選択せざるを得ません」

 ではなぜ、縦書きにこだわるのか。

「『旅情をかき立てる』という目的からすると、縦書きのほうが誌面の構成上、落ち着いた雰囲気を作りやすいんです。五・七・五の短歌の横書きはあり得ない。金閣寺の紹介も横書きはあり得ません」(竹内さん)

 伝統的な観光スポットを紹介するまっぷるは、縦書きで「和のテイスト」を醸すのが不可欠なのだ。ただ、アクセス情報や問い合わせ先は洋数字やアルファベットで記述する必要があり、横書きも混じるという。

■押し寄せる横書きの波

 竹内さんによると、国内旅行のガイドブックはかつて、縦書きがメインのケースもあったという。

「識者が長めの読み物ふうの文章で定番の観光スポットを紹介していました。デジタルカメラが普及する前は写真の掲載も少なく、グルメスポットの紹介もデータより読み物主体で、すべて縦書きでも違和感はありませんでした」(同)

 そんな中、スポットと写真を大判で見せる“ニューフェース”として誕生したのが、89年創刊のまっぷるだった。とはいえ、右開きのまっぷるも横書きのページが増えている。全編を横書き、左開きに刷新する予定はないのか、と失礼な質問をしたところ、竹内さんはこう即答した。

「今のところ考えにくいですね。現実に金閣寺とかが存在しているので」

 だが、ウェブ版は? 聞くと、すべて横書きだという。

「紙の場合、情緒感は絶対譲れませんが、ウェブ版は別物と割り切っています。記事分量の制約がないウェブのメリットを生かし、最新トレンドなどの付加情報を増やしています」(同)

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