煉獄がこの言葉をつぶやいた時、煉獄の足元にはおびただしい血が流れ出ていた。死に至るほどの出血、どれほどの苦しさだろうか。それでも、自分の仲間である柱たちは自分と同じような道を選ぶだろうと、煉獄は信じている。深い信頼関係で彼らが結ばれていることがわかる。
煉獄の訃報を聞いた柱たちが、言葉少なくとも、思いがひとつであることは、痛いほどに伝わってきた。
■死ぬことを“無駄”だという猗窩座へ
「杏寿郎死ぬな 生身を削る思いで戦ったとしても全て無駄なんだよ 杏寿郎」と猗窩座がささやいた時、煉獄はこんな言葉で返した。
<俺は俺の責務を全うする!!ここにいる者は誰も死なせない!!>(煉獄杏寿郎/8巻・第64話「上弦の力・柱の力」)
一瞬でも気を抜けば、自分のすぐそばにいる、手負いの炭治郎や伊之助が猗窩座に攻撃される危険性があった。渾身の気迫をもって、煉獄杏寿郎は猗窩座の注意を自分に引きつけ、みんなを守ろうとした。煉獄杏寿郎は誰も死なせない。それが炎柱である自分の矜持だった。命をかけて他者を守り切ることは無駄なことではない。その証として、後輩剣士たちはここから強く成長する。
炭治郎の涙の言葉が、われわれの心にも響くだろう。―煉獄さんは負けてない!!誰も死なせなかった!!戦い抜いた!!守り抜いた!!お前の負けだ!!煉獄さんの 勝ちだ!!
◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。AERAdot.の連載をまとめた「鬼滅夜話」(扶桑社)が11月19日に発売されると即重版となり、絶賛発売中。