■“生きづらさ”を抱えた後輩たちへ

<竈門少年 猪頭少年 黄色い少年 もっともっと成長しろ そして今度は君たちが鬼殺隊を支える柱となるのだ 俺は信じる 君たちを信じる>(煉獄杏寿郎/8巻・第66話「黎明に散る」)

 煉獄が遺したこの言葉は、炭治郎たちのその後の心の支えになった。炭治郎たちはいずれも“生きづらい”事情を抱えていた。

 親に捨てられ、無償の愛を知らぬままに育った善逸は、剣術の師弟関係に自分の“生きる場所”を見つけようとした。しかし、兄弟子にはあきれられ、偉大な師匠から教えてもらった技はたった1つしか使えない。

 同じく血縁がおらず、猪に育てられた伊之助は、その「育て親」も亡くし、けんか勝負ばかりする日々だった。しかし、友と過ごすこと、人を助けること、周りを大切にすることの意味が少しずつ分かりかけていた。同時に、自分の実力不足への葛藤も高まっていた頃だ。

 そして、鬼にされた禰豆子は、ともすれば「生きること」すら許されない立場にあった。「鬼を連れている鬼殺隊員」である炭治郎も、厳しい視線にさらされていた。

 こんな“生きづらい”炭治郎たちを煉獄は「信じる」と言った。煉獄の言葉に、彼らはどんなに救われただろうか。胸を張って生きろ。心を燃やせ。忘れられない遺言となった。

■なぜ柱たちに遺言は伝えなかったのか

 しかし、煉獄は父弟、後輩剣士には遺言を伝えようとしているのに、戦友であるはずの「柱」たちには言葉を遺していない。それは一体なぜなのか。

 本来、鬼殺隊の隊士たちは産屋敷耀哉を介して、遺言を預けられるシステムになっている。そのため、もっと詳細な「遺言」はすでに産屋敷家で保管されていた可能性は確かにある。だが、それでも父と弟には言葉を言い残していることを考えると、柱たちに言葉がないことは、不思議ではある。

 では、他の柱たちに対して、煉獄は思い入れがなかったのだろうか。そんなはずはない。以下の煉獄の言葉を確認するとよくわかる。

<俺がここで死ぬことは気にするな 柱ならば 後輩の盾となるのは当然だ 柱ならば 誰であっても同じことをする 若い芽は摘ませない>(煉獄杏寿郎/8巻・第66話「黎明に散る」)

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