安倍晋三政権が集団的自衛権行使に道を開いて以降、日本の戦争準備が着々と進んでいる。「台湾有事=日本有事」という飛躍した話が、今や当然のことのように語られる。沖縄などの離島にミサイル基地や電子線部隊が設置され、北京攻撃ができる長射程ミサイルの開発も進む。さらに、最近は「継戦能力」と称し、長期戦に備えて武器弾薬を北海道などから沖縄方面に再配備するため、火薬工場を国が建設して防衛産業に貸し出し来年にも稼働させる。今すぐ戦争が始まるかのようだ。
しかも、こうした動きは、冷静な議論なしに進められている。保守派の人たちは、反対の声に全く耳を貸そうとしない。例えば、柴山昌彦元文部科学相のように「平和ボケした国民」などと揶揄したり、リベラル派の頭が「お花畑」と馬鹿にする言動も良く目にする。
しかし、私から見れば、彼らの方がよほど平和ボケである。例えば、防衛費をGDP比で1%から2%へ倍増すると息巻いているが、実は、ドル建てで見ると防衛予算は減少している。補正予算追加分を含む2021年度決算額を見ると548億ドルで、民主党政権最後の12年度決算額の597億ドルよりも大幅に少ない。仮に為替レートを直近の1ドル145円とすれば、さらに激減だ。今の円安が続く限り、来年度予算も、ドル建てで民主党政権時代を上回るのは至難の業。米国からの武器購入などがドル建てであることを考えると深刻な問題である。
大幅円安の主因は、日米金利差の急速な拡大だが、日本がゼロ金利政策を10年間続けても止められないのは、先進国で日本だけ経済が停滞し、需要不足が続いているからだ。経済成長の芽も見いだせず賃上げもできない。その結果、経済が拡大せずGDP比で防衛費を増やしても増額は微々たるものになる。しかも、国防の要と言われる最先端半導体の開発競争から10年も前に脱落し、復活はもう不可能な状況。産業競争力の衰退は防衛力の衰退に直結しているのだ。