
さらに今春、Hさんを驚かせるオファーが届いた。
「種付けの申し込みがあったんです。どんな牝馬かと血統を見て、これはとんでもないことになりそうだと感じました」
その馬の名はガレットデロワ。自身は1勝も挙げることなく引退したが、父は今をときめく人気種牡馬エピファネイア(GI2勝)で、母ブロードピークの父はディープインパクト。従兄弟には18年のダービー馬・ワグネリアンがいる。
これだけの良血馬が、なぜなんの実績もないクワイトファインと? やはりテイオーの血を残すことにロマンを感じたのか?
オファーを出した生産牧場トラストスリーファームの岡崎貞史代表に尋ねると、一笑に付された。
「ロマンとか夢というものは、ファンが持つものであり、我々が持つものではありません。我々は仕事として馬を生産しているんです」
そのうえで、
「私自身はクワイトファインのことは知りませんでした。馬主さんで血統に非常に詳しい篁真一郎さんに、こういう馬がいると教えていただいたんです。テイオーの子というよりも、クラウドファンディングで種牡馬となったということに興味を持ちました。生産牧場としては、馬が売れるというのが大事です。それだけ熱量のあるファンがいる馬なら、一口馬主を募集するクラブが興味を持つだろうと。また、サンデーサイレンス(注)が入っていない馬との配合は、面白いかもしれないと感じました」
たしかに大いに話題を呼び、一口馬主が募集されたらかなりの人気になるだろう。来春の誕生が楽しみである。
それにしてもHさんの情熱はどこから来ているのか。それを尋ねると、まったく意外な答えが返ってきた。
「私はトウカイテイオーのファンだったわけではないんです。当時応援していたのは、レオダーバン(1991年のダービーでテイオーの2着)。ものすごく強い馬より、2番手3番手を応援していたんです」
ではなぜテイオーの血にこだわるのかを聞くと、
「バイアリータークの血統を……」
と、サラブレッド3大始祖の話を熱く熱く語り始めた。要約しよう。