
■非正規の割合が高い女性、男女の賃金格差も重なる
調査を行った同センター長で同大学の阿部彩教授(貧困・格差論)は、母子世帯の貧困率が高い理由について、女性が置かれている労働市場の脆弱(ぜいじゃく)性にあると指摘する。
「一番大きな理由は、雇用形態として女性は非正規の割合が高いことです。母子世帯の母親は、離婚して働かなくてはならなくなったとき、仕事はパートなどの非正規雇用くらいしかありません。そこに、男女の賃金格差も重なってきます」
01年に誕生した小泉純一郎政権による労働市場の規制緩和によって、企業は人件費を抑えられる非正規雇用を増やす雇用構造への転換を進めた。厚労省の16年の調査では、母子世帯の母親の約8割が働いているが、その約5割がパートや派遣社員として働く非正規で平均年間就労収入は133万円。正社員で働く母親(305万円)の半分にも満たない。収入が貧困線の50%未満である「ディープ・プア家庭」は母子世帯の約1割を占める。
また、男女格差を見ると、母子世帯の母親の15年の平均年収は243万円で、父子世帯(420万円)に比べ177万円も低い。
日本女子大学の周燕飛(しゅうえんび)教授(労働経済学・社会保障論)は、男女格差の背景には「意識の壁」と「雇用慣行の壁」──の二つの壁があると指摘する。
「まず、男女役割分業意識が依然として根強く、女性に家事や介護など無償労働の負担が集中しています。そして、終身雇用や企業内特殊熟練は今も主流であり、正社員のしんどい働き方が変わっていません。こうした壁は、女性のキャリア継続を難しくさせています」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2022年8月29日号より抜粋