「海洋危険生物」の中でも最強のスナイパーは、イモガイの仲間であるアンボイナガイだろう。日本では伊豆諸島、紀伊半島以南の岩礁やサンゴ礁に生息する。殻の長さが10センチほどにもなる大きな巻貝で、淡い紅色をしている。吻(口先)の中に毒銛を持ち、小魚など獲物に打ち込んで仕留める。
コノトキシンという非常に強い神経毒で、多数の死亡例がある。刺されてもほとんど痛みはないが、すぐに体が痺れ、溺れる危険性がある。沖縄では、「ハマナカ―」と呼ばれて恐れられている。刺された人が陸に引き返そうとしても、浜の半ばで死んでしまうという意味だ。もし刺されたら、早急に病院へ搬送しなければならない。
前出・大野氏が語る。
「きれいな巻貝だからといって不用意に触らないことです。踏んでしまうこともあるので、磯遊びのときもビーチサンダルではなくマリンシューズを履くべきです。他にも踏むと危険な生物はいて、たとえばウニの仲間、ガンガゼのトゲは刺さるとなかなか抜けません。内湾の砂場には、尾棘(びきょく)と呼ばれる毒トゲを持つアカエイ類が潜んでいることもあるのです」
「危険生物」といっても海は本来、彼らのテリトリーだ。無暗に触ったり踏みつけたりというのは、こちらの不注意というもの。生き物たちの本来の姿を静かに観察したい。
(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日オンライン限定記事