京都市の今西千尋さん(57)は結婚して10年、2児の父親になったタイミングで自身の「性自認」に気づき、妻に自身がトランスジェンダーであることをカミングアウトした。「性への違和感を覚えるタイミングは人それぞれで、中には千尋さんのように結婚後夫や妻となり性別による役割を考えさせられることで気づく人もいる」と専門家は話す。AERA 2023年1月23日号の記事を紹介する。
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男性として生まれた人は、性自認が違ったとしても、気づいたり行動に移したりするのが、年齢を重ねてからというケースが多いのではないか、という指摘もある。「gid.jp日本性同一性障害と共に生きる人々の会」の永沼利一代表は言う。
「期待される社会的役割を果たすために、意識的にか無意識的にか、性別違和に気づかないように情報をシャットダウンする人もいます。また、性別違和に気づいていたとしても、空気を読んで自分を抑圧するため、行動を起こせないこともあります」
自らの性別違和について、結婚後に配偶者や子どもに打ち明けるのは、友達に打ち明けるのとは深刻さが違うようだ。セクシュアリティー研究の石田仁さん(成蹊大学非常勤講師)は言う。
「家族へのカミングアウトによって、家族の関係性が一時的に悪化し、修復に時間がかかる場合がある」
千尋さんもカミングアウトの際、覚悟したという。
「離婚を求められるのではないかと、先のことを考えるのが怖かった」
実際、妻の博子さん(56)はすぐには受け入れられなかった。
千尋さんにむしろ「男性らしさ」を感じていたからだ。昔から、神輿(みこし)を担いだり、ボートを漕(こ)いだりする姿が印象に残っている。
「男性としての千尋さんを好きになりました。願わくは、男性のままでいてほしい、と思いました」(博子さん)
■妻の血圧は180に
ただ、千尋さんもカミングアウトをきっかけに、これまで抑え込んでいた気持ちをコントロールできなくなった。見た目を少しずつ変え始めた。髪の毛を伸ばして、化粧をした。
そうした姿を見た博子さんは、上の血圧が180まで上がるようになって、体調を崩した。これでは暮らしていけないと、別居に。ただ、博子さんの考えは少しずつ変わっていった。
千尋さんがカミングアウトした当時、長男は7歳、長女は3歳。