■制服を増やさない理由はなかった
スラックスを導入した直接のきっかけは、コロナ禍だった。
2020年3月、新型コロナウイルスの拡大防止策として「全国小中高等学校等の一斉休校措置」がとられた。その後、同校では分散登校が行われたが、その際、保護者から「学校から帰宅したら、着ていた服をすべて洗濯したい」という強い要望が寄せられた。そのため学校は、白いポロシャツとズボンであれば、私服で登校することを期間限定で許可した。
「ところがその期間が終わっても、スカートに戻るのはもう嫌だと、強い気持ちを持つ生徒がいたんです。だからといって制服がある以上、それを許すわけにはいかない。私たちもつらかった。しかし、現実的にスカートをはくことに抵抗ができてしまった人がいる以上、スラックスを選べるようにしてもいいんじゃないか、という話になりました」(小林教頭)
齊藤校長は、こう話す。
「その子が制服を選べることによって、安心して学校に来られるなら、そのほうがずっといいですよね。ですから、制服の選択肢を増やさない理由はなかったわけです」
■検討からたった2カ月で受注開始
学内でコンセンサスを得るのに十分な時間をかけたうえで、具体的にスラックス導入に向けて動き出したのは昨年7月。
「制服の業者さんに相談したら、桜蔭のジャケットは丈が長めなので、それをスラックスと合わせて『第一礼装』とすることも可能じゃないかとご提案いただいて。やってみたら、案外よかった。要するに、あまり大きな変更をせずに、制服を選べるようにできることがわかった。それからは早かったですね」
スラックスの検討を始めてから生徒から受注を開始するまでたった2カ月と、その動きはスピーディーだった。
「生徒たちはとても実利的で、暖かくていいからとか、小学生のときにずっとズボンをはいていたからとか、多少行儀悪くしても目立たないからとか、さまざまな理由でスラックスをはいている。そのなかで、スラックスに特別こだわりのある生徒が際立った存在にならずにすんだのはとてもよかったと思います」(齊藤校長)