吉岡氏によれば、スケーターの空中での回転の速さは1回転あたり0・2秒前後。4回転半で体が1620度回る。空中に浮かんでいる時間は、バスケットボールの一流選手のダンクシュートのイメージに近いという。
「滞空時間としてはダンクに近い。0・8秒ちょっと空中に浮いていてはじめて4回転半がまわれる。ひとえに選手の身体能力とセンスにかかっています。羽生は北京五輪で3連覇するという以上に、4回転半を成し遂げたいというのが目標でした。そういう意味では彼はやり切ったと思います」
フリーの演技では、クアッドアクセルに続く、4回転サルコウでも転倒した。
「クワッドアクセルという大技で失敗したから、引きずられて4回転サルコウも失敗したように見えました。4回転半の転倒が響いたのか、スピードなく入ってしまいましたね。失敗したという心理的な部分と、起き上がって加速して再び跳びにいかなければいけないという負担もあったのだろうと思います」
2つのジャンプの失敗の後、羽生選手はいつもの優美な演技だった。
ショートプログラム(SP)を終えて、8位だった羽生選手。フリーでは順位を上げた。
「みんなチョコチョコ失敗していた。SPで4位だった韓国のチャ・ジュンファン選手は最初のジャンプでひどい失敗をして転倒。羽生の上にいた他の選手も次々に失敗した」
結果的には総合点で4位にまで浮上した。
「羽生のように2つ大きな転倒をしてしまうと、コンポーネンツなど他の採点で稼ぐといっても限りがあります。そういう意味では、転倒以外のところでは、マックスぎりぎりまで点数は出してもらっている。審判の人たちも彼のプログラム全体の素晴らしさは認めてくれたということだと思います」
ところで、吉岡氏はSPの演技はどう見たのか。
「羽生は最初のサルコウが氷にひっかかってシングルで抜けてしまった。その時点で、演技をしながら、彼には零点になることはわかっていたはずなので、本当は気持ち的には難しくなるところ。それを集中を切らさずに最後までしっかりと滑り切ったというところが素晴らしかった」