翌日、彼女は妹と父と話し合います。自分たちの物をしまう場所を作りたい。遺品はいったん全部母の部屋にまとめ、将来的には片見分けして親しい人の心の中で母が生きるようにしたい。一晩考えたアイデアをぶつけました。
母の部屋は「あいまい部屋」として、遺品は手放す期限を作らない。思い出はそのまま残ると伝えました。母の亡きあと3人で深い話をしたのははじめて。妹もやっと提案を受け入れてくれました。
父は乗り気で自分のスペースを整理し、彼女は妹をリードしながら片づけ、母の部屋とリビングのキャビネットは残してプロジェクトはいったん終了。
「これは捨ててもいいんちゃう?と思える物でも、妹は動かすのも嫌がったんです。一個づつ確認して仕分けていたつもりが、傷つけていたみたい。でも最近は、『これは何年も使ってないからいらんやろ』『収納ケースはサイズ測ってから買わな』って、あっちのほうが勉強して私が怒られるくらい。すごく協力してくれます」
慎重派で繊細な妹は、姉が海外にいた時期と介護に専念する間、母と一緒に過ごしました。買い物の思い出、病気になりみとるまでの時間、部屋を片づけたらそれらも消える気がしたのかもしれません。怒りの裏にある悲しみをいったん出して、妹も現在地を俯瞰できた。今は姉妹で、「どんだけあるねん」と突っ込みながら遺品を整理しているそうです。
人生にはやりたいと思えることとそうでないこと、その両方が必ずあります。片づけは重要ですが、マイナスをゼロにする生産性のない作業に思えるかもしれません。でも、片づけも人生の一部として愛情を持って向き合うことで、「やりたいこと」をする時間が輝きます。彼女がすごいのは、難しい遺品整理を笑いに変えながら、家族の方向性を合わせたこと。理想のゴールと違ったかたちであっても決着をつけたこと。白黒つけないグレーも受け入れた彼女は、ひとまわり成長したように思えました。
※AERAオンライン限定記事