フリーで渾身の演技をみせる鍵山優真。「まだまだやれるぞっ」と、早くも次の五輪を見据える(photo gettyimages)
フリーで渾身の演技をみせる鍵山優真。「まだまだやれるぞっ」と、早くも次の五輪を見据える(photo gettyimages)

■試合が終わってしまう

 続く鍵山も、フリーは心境に変化があった。

「この演技ですべてが決まる、試合が終わってしまうと考えると、やっぱり緊張してしまいました」

 6分間練習で動きが硬くなる鍵山に、父の正和コーチは「悔いが残らないよう自分がやりたい演技を」と声をかける。「緊張の中でも楽しむ気持ちは忘れずに」と自分に言い聞かせた。

 冒頭の4回転サルコーは、スピードを生かし、美しい放物線を描く。4回転ループはステップアウトしたが、気持ちは切れなかった。残るジャンプすべてを降り、全力のスピードで駆け抜けるコレオシークエンスからは18歳のエネルギーがあふれていた。膝(ひざ)をつくフィニッシュポーズから、そのまま氷に崩れ落ちるように手をついた。

「団体、ショートと続いて体力的にキツくて、いつも通りの演技をすることは難しいと思っていました。それでも全力で、最後まで諦めない滑りを見せたくて、思いっきり滑りました」

 キス&クライに座り得点が出ると、正和コーチが思わず涙をぬぐった。フリーは201.93点、総合310.05点。銀以上が確定すると、父と握手を交わした。五輪2大会出場の父と共に歩み、父を超えた瞬間だった。「スケートを始めたころから五輪が夢。その時からのすべての努力が詰まった銀メダルです。いい親孝行ができたんじゃないかなと思います」

(ライター・野口美恵)

AERA 2022年2月21日号より抜粋