和歌山県海南市で生まれ育った宮本さんには「1秒でも早く田舎を出て、東京に行きたい」という思いがあった。「で、上京すると、今度はアメリカに憧れた」。
しかし、60歳が近づくと、やり残したテーマは何か? 考えるようになった。
「そうしたら、『ああ、やっぱり、自分の故郷だな』と。日本のコースと撮りたいと、心の底から思った。それで帰国を決意した」
日本に戻ったのは12年。それまで宮本さんは海外で美しいコースの景色を数多く目にしてきた。しかし歳を重ねると、日本のきめ細かな四季の移り変わりが心に染みるようになったという。
「日本の自然の美しさが、ようやく素直に『美しい』と感じられるようになった。でも、ゴルフ場というのは、ある意味、その美しい自然を一度壊してつくるわけです。ところが、優れたコースというのは、周囲の自然と調和して、ずっと前からあったかのごとく、なじんでいる。だから、とても心地いい。その設計の妙を、写真家として、かたちにしていかなければならない」
■足の裏に感じる微妙な起伏を写す
さらに宮本さんは、「ゴルフは錯覚のスポーツ」と語る。
「例えば、実際の距離が150ヤードあったとしても、それが近くに見えたり、遠くに見えたりする。そうすると、選手が戸惑うわけです。それも設計の妙で、バンカーや木の配置、光の取り入れ方などを工夫している。実に奥深いものだな、と思います」
フェアウエーも練習場のような平らではなく、足の裏から感じるくらいの微妙な起伏が設けられている。
「それがやはり、コースの難しさにつながっている。選手はそのわずかな起伏を感じて打ち方を変えるわけですが、写真家はそれをどう表現するか?」
撮影の秘訣は、コースを丹念に歩くこと、という。
「他の人よりも早く起きて、遅くまで歩く。それが自分にできること。とにかく歩いて歩いて、コースの隅々まで感じることが大切。光は刻々と変わるし、立ち位置が変われば太陽の位置も変わる。それをつかむことがこの仕事だと思っています」
その原動力となってきたのがほかでもない、写真だ。
「ぼくは昔、世界にはこんなすごいゴルフ場があるのか、と思って、穴が開くほど写真を見つめ、それが掲載された雑誌が汚れるくらい読んだ。いつかそこに行ってやろうって、目標を立てたわけです。つまり、そこに写真の持つ力の強さがある。今度は立場を変えて、ぼくが日本のコースの素晴らしさを世界に向けてアピールしたい。『このコースに行ってみたい』って、外国の人が思ってくれるような写真が撮れたらいいな、と。そんな思いでやってきた」
実際、宮本さんがインスタグラムに日本のコースの写真を掲載すると、「その素晴らしさをみなさんが感じてくれて」と、うれしそうに話す。
「そういう意味では、今回、写真展に展示する18枚は日本が世界に誇れるコースです」
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】宮本卓写真展「HIKARI has come すべてはこの瞬間の為に」
キヤノンギャラリー S(東京・品川) 3月10日~4月25日