また「最期は家で」と思っていても、冒頭のAさんのように、家族の都合で時機を逸してしまうケースもある。さらに家族の「まだ治るかもしれない」という思いから病院での治療を続けることで、自宅に帰る時機を逸するケースも少なくない。「最期は病院で迎えるもの」という固定観念から、家族が世間体を気にして在宅死を拒否することもある。前出の大軒さんが言う。

「終末期に家に帰るというのは、とても勇気のいる決断です。家族としては、病院にいるだけで安心感や満足感を得られる場合もある。だから退院の決断を、どこか後ろめたく感じる人もいます。ただ終末期には、命の長さばかりを重視する人が多いですが、質についてもっと考えるべき。たとえ数日、命が短くなったとしても、無理な治療で苦しい状態が続く数日だったとしたら、本当に意味があるのか。過ごし方を含めた質について、家族にも考えてほしい」

【ケース4】家族や親族間の意識にずれがある

 家で看取ることに、家族の意見が一致するにはそれなりの時間が必要になる場合もある。だからこそ、「最期は家で」と願うなら、その意思を元気なうちから家族や周囲に伝えておくことが大事だ。容体が急変してからその意思を伝えても、家族間での意見がまとまらず、退院できないまま病院で亡くなってしまったケースも少なくない。

 さらに遠い親戚が、在宅療養をしていると聞きつけ、「なぜ病院に連れていかないのか」と突然介入してくることで、順調な在宅療養生活に横やりが入るケースも多い。在宅療養すると決めた過程や日常のケアの症状を知らない人ほど、身勝手にあれこれと口を出してきがちだ。そのせいで苦労して積み上げてきた環境がガラガラと崩れてしまう悲しい現実が生まれてしまうこともある。

「このような状況を防ぐためには、何か意見のありそうな親族やステークホルダーについて、在宅医も含めて事前に把握しておく必要があります。私も実際に患者さんの家族には『遠い親戚などで、何かあったときに干渉してきそうな方はいますか?』と聞くようにしています。たいていの場合、在宅医療に対する理解がほとんどないために、『家なんかじゃ真っ当な医療を受けられるはずがない』とか、『放置しておくだけなんじゃないか』という非難が多い。しかし実際は終末期において、在宅で受けられる医療は病院で受ける医療とほとんど変わりありません」(前出の中村医師)

暮らしとモノ班 for promotion
新型スマホ「Google Pixel 9」はiPhoneからの乗り換えもあり?実機を使って検証
次のページ