【ケース5】本人と家族や周囲との関係性が良くない
自宅で最期を過ごすことを選択した場合、家族や周囲の支えがあれば、さらに安心した日々を送ることができるはずだ。そのときに如実に表れるのが、それまでの家族との関係性。家族との関係が良くなかったがために、在宅死がかなわなかった悲しいケースを紹介する。
入院している夫が、終末期に「家に帰りたい」と希望し、同居する妻に介護を求めた。それまでほとんど病室を訪ねることがなかった妻に、医師を介して夫の希望を伝えると、「好き勝手生きていたのだから、最期も一人でお願いします。私は一切の面倒を見ません」という言葉が返ってきた。その医師は「今までのことは今までのこととして、旦那さんは命にかかわる状態になっています」と食い下がったが、妻の固い意志はついに揺らぐことがないまま、夫は病院で死を迎えた。
夫は若いころからほとんど家に帰らず、女性問題や借金問題など、多くの心配事を妻に背負わせたまま長年暮らしてきた。自分の体が弱ってきてから初めて妻に優しく接するようになったが、時すでに遅し。少しずつ積み重ねられてきた不満やストレスによって、妻の心は完全に閉ざされ、最後まで関係修復はできなかった。
家族にはそれまでの積み重ねの関係があり、急に関係性を変えることは難しい。だからこそ、家族と同居している場合には特に、家族や周囲との関係性を良好に保つことが大事だ。人は年を重ねるにつれ、一人ではできないことが確実に増えてくる。いざというときに快く支えてくれるか、無関心なのか協力してもらえないのか、その差は自分自身のこれまでの言動の積み重ねにも左右されるのだ。前出の大軒さんが言う。
「自分の状態が悪くなってから態度を改めても、寄り添おうという気持ちにならないものです。孤独にならず、家族に寄り添ってもらってあたたかい最期を迎えたいなら、元気なうちから相応の自分でいるべきです」
ただし、一人では在宅死がかなえられないわけではない。ポイントは、本人が「一人の最期でいい」と思うか。「どうしても誰かにいてほしい」という人は、介護保険サービスの範囲内では限界があることから、プライベート看護などの自費サービスなどを利用すれば、誰かに見守ってもらいながら在宅で最期を迎えることもできる。