「実はこういうケースはよく見られます。遠慮と気遣いは、最期を迎えるときには胸にしまって、思い切って自分の思いを率直に言葉にする勇気を持って。自分の気持ちを伝えられないばかりにすれ違うのは、もったいないとしか言いようがない」
【ケース2】医療者側の思惑が優先されてしまう
患者や家族が、自宅に戻る決断をしたときでも、病院側が「まだ帰すべきではない」と判断した場合は、「もう少し様子を見ましょう」と提案されることがある。入院先の医師や看護師が在宅医療のことをよく知らず、「在宅で看取るのは無理」と思い込み、退院に反対するケースも見られる。
介護する家族の負担を気遣って、入院継続の方針を提案されることもある。それまでの治療を中断することで、医師や看護師が治療に対する敗北感を感じてしまうことも背景として見られる。本人や家族が在宅死の意思を医師にうまく伝えられない、医師も死が間近なことを具体的に伝えられなかったために、機会を失うこともある。
こうしたことを防ぐためには、入院中に自宅に帰りたい気持ちがあれば、「今の状態が病院にいることで改善する可能性があるかどうか」を病院側に確認すること。もし病院にいても良くならないのであれば、状態が悪いからこそ、早めに退院する選択肢を考えたほうがよいかもしれない。同じように、残された時間がどれぐらいあるのかも聞いておいたほうがよい。これまで多くの在宅看取りに携わってきた看護師の大軒愛美さんは言う。
「様子を見て退院時期を延ばしているうちに、病院で亡くなってしまったり、自宅に戻っても寝たきりの状態になってしまったりすることもあります。自宅に帰りたいなら、躊躇(ちゅうちょ)せずに病院側に帰りたい意思を伝えること。気持ちが固まっていれば、病院側の意向に沿う必要はありません」
【ケース3】家族の判断が優先されてしまう
患者本人が弱ってきたら、家族が主導権を持つシーンが多くなってくる。本人も弱っていると、家族の判断に委ねがちで、たとえ「家に帰りたい」と思っても、その意思を家族に伝えられず、「病院にいるべき」という家族の意見にのまれてしまったりする。