さらに、退場要求に違反者が応じない場合は、「主催者は、警察へ通報し又は相当と認められる限度で退場を促すための措置を講じることができる」としている。

 こうした迷惑行為による試合妨害に法的責任はないのか。

 スポーツ法務に詳しいレイ法律事務所の山本健太弁護士は、

「状況にもよりますが、光、光線を用いて、悪意を持って試合の進行を妨害した場合、威力業務妨害罪(刑法234条)に該当する可能性が考えられます。特に、注意を受けているにもかかわらず、同様の行為を繰り返し、試合の進行を何度も妨害した場合は、同罪に該当すると判断される可能性が高まると思います」

 と指摘する。

 スポーツ観戦で、スマートフォンのライトが注意されるケースは異例だが、光線を使った悪質な事案は過去にもあった。

 1997年、大阪ドームのマウンドに立っていたヤクルトの吉井理人投手が、バックネット裏の観客からレーザーのような光線を当てられ投球を妨害された。

 海外サッカーでは観客がレーザーポインターを選手に当てる悪行がたびたび報じられており、W杯予選で日本代表の選手が被害にあった事例もある。

 レーザーポインターは強力なものは目を傷つける恐れもあり、極めて危険な行為である。山本弁護士は、「レーザーポインターを選手の目にあてた場合、態様によっては暴行罪(刑法208条)に、もしそれで選手が負傷した場合、傷害罪(刑法204条)に該当する可能性もあると考えられます」とし、「(スマホのライトを含む)このような行為に関しては、刑法上の問題として対応されないとしても、あまりにひどい場合は、意図的に試合の進行を妨害したとして、主催者側から当該試合の観戦の中止などを求められる可能性もあるでしょう」と解説する。

 かつて高校球児だった山本弁護士は、スポーツで散見される観客による妨害行為について、こう考えを述べる。

「選手に対してはもちろん、試合観戦を楽しんでいる他の観客、ファンの方々にとっても気分の良いものではありません。世の中に、その競技について悪いイメージを与え、ひいては、競技人口の減少、サポーターの減少などのデメリットを生む可能性すらあります。『勝つ』ことがスポーツの醍醐味の1つであることは間違いないですが、『勝敗』だけがスポーツの全てではないということを再認識し、スポーツの本質的価値である『楽しさ』を大切にすることが重要といえるのではないでしょうか」

 今回、観客がスマホのライトを点灯させ振った動機は分からない。応援のつもりだったり、他の観客がやっているからと軽いノリで続いた人も中にはいるかもしれない。ただ、プレー中の選手に影響を与えかねない行為。なにより、観戦マナーを守って楽しんでいるファンが同じ球場にたくさんいることは、忘れないでほしい。(AERAdot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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