「将棋」と「学業」の両立は難しいといわれてきた棋界だが、時代の移ろいとともに、棋士たちの個性の幅が広がりつつある。近年、学業にも優れた棋士として注目を集めるのは、早稲田大政治経済学部卒の中村太地七段(33)と東京大大学院博士課程に在籍中で研究者、エンジニアとしての顔を持つ谷合廣紀四段(28)だ。二人はなぜ「進学」を選んだのか。AERA 2022年4月18日号の特集から。
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将棋界では小学生のうちから競争が始まる。奨励会に在籍している多くの子は中学生か高校生。最近は大学生も増えた。将棋と学業の両立は、永遠のテーマだ。
中村:小5後半ぐらいから「プロを目指そうかな」と家族と話をしているときに、約束として大学進学を勧められました。理由は、大学に行けばいろんな人と出会えて友達になり、幅が広がる。あとは棋士になれなかった場合に、選択肢が狭まらない。それを説明されて自分としては納得できました。
小6のときに奨励会受験と中学受験が重なった中村。将棋にかけられる時間に制約ができたと明かす。奨励会に入ってからも半年ぐらいは中学受験に集中したので、将棋の成績は「うまくいかなかった」と。
だが、長い目で見て大学に進むと決めて、その上でプロ棋士を目指したこともあり、長期的なスパンで考えれば、そこは納得できる範囲だったという。
東大で出会う人に興味
かつての将棋界は「棋士に学歴などいらない」という風潮もあった。最近では藤井聡太竜王が高校に進学するにあたっても、否定的な声も多く聞かれた。中村はその点、どう思うか。
中村:実は藤井さんが棋士になる前ですけど、僕が愛知で仕事があったときに、親御さんと一緒にその場に来ていただいて、お話ししたことがあったんです。藤井さんの場合はプロになれないという可能性は排除してよかった。でも友達を作りにいくとか、そういった意味では、高校に進学するのはいいんじゃないかなと思ってました。棋士・藤井聡太とはまったく違う感じで接してくれる同世代の友達が周りにいたのは、大きかったんじゃないかなと思いますね。