与野党の全会一致で新法ができたことは、「同じような被害で苦しむ子どもが出ないように」という願いを込めて、性暴力被害者やその家族などが声を上げてきた努力の成果で、第一歩となるものだ。しかし、被害者が泣き寝入りしたり、学校側がかたくなに事実を認めず、処分が行われなかったりしたケースには適用されない。近著『黙殺される教師の「性暴力」』で取り上げた事件も、残念ながら適用外になる可能性が高い。

「おっぱい、ぎゅうされた」

 被害女児のこの告白を皮切りに、公立小学校に通う子どもたちが担任の教師から受けた深刻な性被害を次々と訴えていく事件だった。だが学校側は身内の教師の言い分を盾に、子どもたちの訴えにきちんと向き合わない。PTSDに苦しむ子どもの医療費として、被害者家族が「日本スポーツ振興センター」の給付金を申請した際、申請に必要な事故報告書すら書こうとしない学校側の言動が、対応のひどさを象徴している。

「これからお話しすることは、ここだけの話にしていただきたいのですが……」

 教頭は被害者の父親を校長室に通すと、二人きりの部屋で切り出した。

「これまでご迷惑をおかけしたので、給付金については私たちがお支払いしたいと思います」

「私たち? 先生、私たちとは誰のことをおっしゃっているのですか」

「校長先生と私です」

 そう言って、計算式と共におよそ30万円の金額が書かれた紙を示した。

「教頭先生。私たちをばかにしていませんか」

「えっ?」

「私たちがお金のために闘っていると思っているのですか? こんなわけの分からないお金などいりません。きちんと事故報告書を書いて、スポーツ振興センターに申請書類を上げてください」

 それでも学校側は申請書を振興センターに上げず、結局、「給付事由が発生してから2年間」という申請期限を過ぎてしまったことから、被害者家族は医療費の申請すらできなかった。

 自分たちの非を感じていながらも、記録になる形では決して認めようとしない学校側。そこには保身以外何もない。裁判になってからも、学校と教師が一体となって子どもたちの訴えを否定し続けた。そして、加害教師の代理人についたヤメ検弁護士は、PTSDに苦しむ子どもたちを質問攻めにする証人尋問まで行った。

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「無罪」判決で深まった被害者家族の孤立