実際にまかれた「虚偽告訴」と書かれた誹謗中傷のビラ(一部を加工しています)
実際にまかれた「虚偽告訴」と書かれた誹謗中傷のビラ(一部を加工しています)
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教師の性暴力に苦しむ子どもたちがいる――。学校側がかたくなに事実を認めないために、必要な保護を受けられないばかりか、「被害者にも落ち度があった」と言われるなどの二次被害に苦しめられる理不尽な現実がある。事件と向き合おうとしない学校、周囲からの誹謗(ひぼう)中傷、弁護士からの揺さぶり……。子どもを傷つけられた親もまた社会から追い詰められ、声を上げることを諦めてしまう。なぜ、そんな異常な状態が放置されているのか。苦悩しながらも声を上げ続けた被害者家族の記録をまとめた『黙殺される教師の「性暴力」』(朝日新聞出版)を著した、朝日新聞の南彰記者が寄稿した。

【写真】15歳から受け続けた教師の性暴力を訴えた女性

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 なぜこんな教員が、野放しにされていたのだろうか。

 4月2日、東京都内の小学校に勤める40代の教諭が、10年前に当時10代の女性に性的暴行を加えた疑いで逮捕された。この男性教諭の逮捕は今年に入ってから3回目。いずれも、子どもを狙った性犯罪の容疑だ。これまでに勤務していた小学校で担任をしていた複数の女児の着替える様子を盗撮したなどとして、児童買春・児童ポルノ禁止法違反の疑いで捜査が進んでいる。

 2020年度に「性犯罪・性暴力等」を理由に処分された公立学校の教員は200人。2011~2019年度に「わいせつ行為等」で処分された人数を加えると、10年間では2200人近くになる。この中には、私立学校の教員は含まれていない。氷山の一角の数字であるとともに、その裏側には、性的虐待で心身を傷つけられ、信じる力を削られた子どもたちが数多くいる。

 こうした状況から子どもたちを守ろうと、昨年5月、教員による児童生徒への性暴力を防止する新法が国会で成立した。教員による児童生徒や18歳未満に対する性交やわいせつ行為について、同意の有無を問わず「児童生徒性暴力」と定義し、その禁止を明記。懲戒免職になって教員免許を失っても、失効後3年たってから申請すれば自動的に再交付されて教壇に戻れる現状にも歯止めをかけた。

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「おっぱい、ぎゅうされた」