女性研究者は少しずつ増えているが、大学では3割に満たない。企業ではわずか1割程度。分野別では自然科学で少ない傾向がある(総務省「令和3 年 科学技術研究調査」から)
女性研究者は少しずつ増えているが、大学では3割に満たない。企業ではわずか1割程度。分野別では自然科学で少ない傾向がある(総務省「令和3 年 科学技術研究調査」から)

 欧米では1980~90年代から女性研究者の実情に目が向けられ、大学などでは奨学金や助成金を与えるなどの取り組みが進められてきた。教師や保護者の間でも、「女の子は理系や研究職に向いていない」という思い込みを捨て、男女の区別ない教育を提供しようという意識が高まったという。

 「女性研究者はすぐには増えません。欧米では何十年も前から長期的な視点の取り組みを続けてきたことが、今になって実を結んでいるのです。日本は大幅に出遅れていますので、行政面からも教育現場からも、迅速に対策を講じることが求められています」

 ■多様な分野で求められるジェンダー的な観点

 スタンフォード大では、性差分析を多様な研究に取り入れて全ての人のための改革を目指す「Gendered Innovations(ジェンダード・イノベーションズ)」を推進し、ホームページでさまざまな研究事例を紹介している。例えばある研究では、多くの車が男性の体型に合わせて設計されており、その想定に合わない女性などは事故による怪我や死亡のリスクが高くなると指摘されている。さらに、従来のシートベルトは妊婦の体にフィットするよう作られておらず、比較的軽い衝突事故でも胎児に害を及ぼす可能性があるという。 

 また、妊娠・出産や生理、女性特有の病気などをテクノロジーでケアする新しい分野「Femtech(フェムテック)」も世界的に注目され、これからの成長が期待される。 

 河野教授は、研究に女性の視点が入ることで、ダイバーシティーが実現されていくのだと話す。 

「法学分野ではDVやセクシュアルハラスメントに関する法整備、経済学分野では主婦の家事労働が経済に及ぼす価値の分析、情報分野ではAIによる顔認識システムのバイアスの除去、医学分野では男女の体の差をしっかりと踏まえた性差医療の研究……。ジェンダー的な観点は特定の分野ではなく、あらゆる分野で求められています。女性研究者の増加は、誰もが暮らしやすい社会づくりにつながっていくのです。これからは、男女が協働し、分野も融合した複合的な研究開発が世界を変えていくことでしょう」

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研究者に男女の向き・不向きはない