AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。『刑事弁護人』は、薬丸岳さんの著書。ある日、現役警察官によるホスト殺害事件が起きる。弁護士の持月凜子は、同じ事務所の西大輔と無実を信じ奔走するが、次第に、事件は幼児への性的虐待が引き金となっていたことを知る。キャリア17年目の薬丸さんが初めて女性主人公の視点で描いた作品。シナリオの勉強をしていた薬丸さんは、「映像」としてイメージしたものを文章にすることもあるという。薬丸さんに、同書にかける思いを聞いた。
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擁護する余地のない被疑者を弁護するって、どういうことだろう。そんなことを考えたことがある人は、きっと少なくない。それは作家の薬丸岳さん(52)も同じだった。
なぜ、刑事弁護人という仕事をしているのか。葛藤はないのか。ニュースなどで刑事事件に触れ、芽生えた感情が、作品を描く原動力になるという薬丸さんにとって、それは長年の疑問でもあった。
「極刑を争うような事件では量刑を軽くするために精神鑑定を主張することもある。そうした方針には、納得できない部分もありました。どんなお気持ちで仕事をされているのだろう、という思いがあり、いつか刑事弁護人を主人公にした作品をつくりたい、という気持ちがありました」
弁護士の持月凜子は同僚と、現役女性刑事による殺人事件の弁護を担当する。だが、やがて被疑者の供述はすべて嘘(うそ)だったことが明らかになる。『刑事弁護人』で描かれるのは、「被疑者」という一言では片づけることのできない人間の多面性、刑事弁護人の苦悩、そして人と人が繋(つな)がっていくことの不思議さ。判決の行方が最大の見せ場となることが多い“弁護士もの”で、決して表層的ではなく、事件の奥底に眠る感情、裁判のその先までを描き切る。物語を書くにあたり、5人の刑事弁護士に話を聞き、ネガティブだったイメージも少しずつ変わっていったという。