「被疑者ノート」「勾留理由開示請求」……。『刑事弁護人』には、裁判の細かな用語も多用されている。「目指したのは、読者の方が『リアルだな』と感じられるリーガルミステリー」という。
「裁判は、多くの方々からすると、縁のない世界だと思います。ですが、実際に傍聴すると、いつ、誰が裁判に立たされても不思議ではない、という気持ちにもなります。交通事故などの過失で人を死なせてしまうこともある。『逮捕されたらどうなるのか』といった情報を織り込みながら、できるだけリアルな物語を届けたいと考えました」
『友罪』(2013年)、『Aではない君と』(15年)といった作品で、少年犯罪をテーマに扱ってきた。デビュー以来、傍聴した裁判は100を超える。
罪を犯した者を描き続けるのはなぜか。
「正直なところ、もうこの手の話は書きたくないんです」と薬丸さんは言う。
犯罪者の心を描くことは、自身をも苦しめる。でも悲惨な事件はなくならない。痛ましさや腹立たしさを感じると、再び「書かなければ」という思いに突き動かされる。
「あくまで物語上ではありますが、悪いことをした人間には報いがあってほしいですし、傷ついた方にはほんの少しでも光があってほしい。物語を読むことで、それがたとえ読者の0.001%であったとしても、『罪を犯すのはやめよう』と思うようになる人がいたら。そんな思いもありますね」
(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2022年5月23日号