エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
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 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 かねて気になっています。著名人が亡くなったことを速報ニュースで流す必要はあるでしょうか。この連休中や休み明けにも、端末の画面に飛び込んできた速報で著名人の訃報を知った人が多いでしょう。アナウンサーが読み上げた文言に衝撃を受けた人もいると思います。特に、亡くなったことがわかったばかりの段階で「自ら命を絶ったとみられる」などと報じるのは、ショックが大きく、さまざまな臆測を呼びます。しんどい毎日をぎりぎりの思いで凌(しの)いでいる人の心に強い負荷をかけることにもなりかねません。そうした報道の影響は“ウェルテル効果”として知られています。なぜ、不確実な段階でそんなに急いで伝えるのか。メディアは他社との競争やPV稼ぎに走らず、WHOの報道ガイドラインを守ってほしいです。

日本いのちの電話 ナビダイヤル(10~22時):0570-783-556/フリーダイヤル(毎日16~21時、毎月10日8時~翌日8時):0120-783-556(写真:gettyimages)
日本いのちの電話 ナビダイヤル(10~22時):0570-783-556/フリーダイヤル(毎日16~21時、毎月10日8時~翌日8時):0120-783-556(写真:gettyimages)

 著名人の死を世間の人が一秒でも早く知ることにどれほどの意味があるのでしょう。本当に知らせる必要のある人には既に連絡がいっているはずです。野次馬を増やすだけの速報は、残されたご家族や関係者の負担を増やします。SNSで安易に拡散するのも控えましょう。最優先するべきはご家族のケアと、亡くなった方の尊厳を守ることです。

 私も、著名人の死にはとてもショックを受けます。仕事柄、面識のある方であることも多いです。気持ちが落ちこみ、なぜ、という思いも湧き上がります。でも「静かに悼む」ことを大切にしようと思っています。どれほどたくさんメディアに出た人でも、人々が見ているのはその人のごく一部です。“知っている”つもりになっているに過ぎません。いろいろな臆測が頭をよぎりそうになったら「いや、自分はこの人のことを何も知らないのだ」と深呼吸する。そして亡くなった方の命に敬意を払い、思いを手向けるようにしています。繰り返される速報と拡散の連鎖を止めたいです。

◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。

AERA 2022年5月23日号